カレーライスとリハビリ ~経験年数が短いセラピストのための治療の考え方&学び方(リハビリの基礎講座④)

まほせら式 リハビリの基礎講座

今回は治療についての考え方を話していきたいと思います😊 前回の内容をもとに書いていますので、少し長いですがまだ読んでない方はそちらを先にご覧ください↓
文献ではなくまず患者様をみる ~セラピストの基礎能力を上げる臨床の考え方(リハビリの基礎講座③)

前回「評価がしっかりしていれば自然と治療は導かれる」とお話ししました。基礎科目の知識にしたがって評価すれば、問題の組織は分かるはずなので、あとはその組織を生理学、病理学などをもとに解釈して、理学療法士であれば物理学、運動学に基づいて治療すれば良いのです。

原則はその通りなのですが、現実的に基礎科目の習得はすぐできるものではありませんし、知識と臨床を結びつけるのも慣れないと難しいと思います。基本ではありますが簡単ではありません。

そこで書籍、セミナー、職場の指導者など外部からの学びが必要になります。

しかし、自分に何が必要か分からなければ学ぶこともできません。何を学べば良いのか、どのように学んだら良いのかわからないという人はとても多いのです。そこで今回の「治療概念」「治療理論」「治療技術」という話が出てきます。

※「治療概念」「治療理論」「治療技術」という用語は公的な区分ではなく、今回の説明のために便宜上設定したものです。ご理解の上で読み進めてください。

治療概念、治療理論、治療技術をカレーライスに例えてみます

この3つについて説明するためにカレーライスを例にします 🍛

友達とカレーライスを作ろうという話になり、スーパーマーケットへ買い物に行きました。しかし私はカレーを見たことがありません。さて、どうなるでしょうか?

おそらく、材料を揃えようとしても数ある食材の中から何を買えば良いか分からないでしょう。一度でもカレーを見たことがあれば、だいたいのイメージがつくかもしれませんが、それでもレシピもなくいきなり作るのは難しいと思います。

これを治療に置き換えると、スーパーに置いてある多くの食材が「解剖、生理学など基礎科目の知識」、カレーライスのイメージが「治療概念」、レシピが「治療理論」、鍋、包丁、ピーラーなどの道具が「治療技術」に当たります。

料理を治療に例えると
食材 → 基礎科目の知識
料理のイメージ → 治療概念
レシピ → 治療理論
道具 → 治療技術

食材は料理に不可欠ですが、それだけで初心者が料理をすることは困難です。
カレーライスのイメージやレシピがあるからこそ、肉、ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、カレールーなど、特定の食材がピックアップされます。

これは治療も一緒で、人体の知識は限りなく、どれが必要なのか最初のうちは捉えることが困難です。そこで治療概念や治療理論を学び、最初のうちはそれを参考にすることで感触をつかんでいきます。

レシピがあっても道具がないと実際に料理することはできません。道具に当たるのが治療技術です。

治療概念と治療理論 〜ボバース概念療法を例にして

治療概念と理論の区別はつきにくいですが、例えば、多くのセラピストが一度は聞いたことがあろうボバース療法は、bobath concept(ボバース概念)とも言われます。理学療法ハンドブック(第4版)でも「ボバース概念療法」と紹介されています。

ボバース概念療法の始まり
ドイツからイギリスに亡命してロンドンで理学療法士の仕事を始めた1940年代のベルタ・ボバースは、イギリスの理学療法士協会に認知してもらうために、専門職課題を克服しなければならなかった。イギリス人の指導者に従って、関節可動域訓練、筋力訓練、物理療法、動作訓練を積み重ねていった。そのうち、ボバースはどのような疾患でも同じような治療が画一的に行われていることに疑問を感じた。特に中枢神経疾患の患者に対しては、治療で改善するどころか筋緊張が亢進してかえって能力が低下することが多かった。ボバースは「中枢神経系患者の表面を覆っている過緊張や痙縮を、軽減または除去すれば、患者自身には莫大な自動運動能力が潜んでいる」という仮説で、多くの中枢神経系患者で効果を確かめた。ベルタ・ボバースの仮説と手技は、神経学者である夫・カレル・ボバースの理論考察とともに変遷の歴史を重ねていった。
(参考文献:「ボバース概念治療」紀伊克昌.理学療法ハンドブック 改訂第4版 第2巻)※1

治療の形は医学の進歩や技術の変遷によって変わるかもしれませんが、ボバース夫妻が最初に打ち立てた治療に対する根本的な考えや方向性は変わらず、時代が移ろいでも脈々と受け継がれているはずです。信条、哲学と言っても良いかもしれません。これが治療概念に当たります。
私はボバースセラピストではありませんが、本を読み講習会で話を聞いた印象では「その人の状態、個性に合わせた治療であること」「正常な運動を妨げる因子をできるだけ取り除き、その人の能力的な可能性を引き出す」というのが基本的な考え方ではないかと理解しています。

概念というのは抽象的な存在で、必ずしも言葉で全てを表現できるものではありませんし、端的に表現できるとも限りません。しかし、存在しないわけでも、人それぞれで認識が違うわけでもありません。成熟した治療概念であれば、そのセラピストたちはある程度共通した概念を持っています。逆に言えば、本当の意味で理解するのはすぐにはできないものだと思います。私のボバースへの認識も門外漢のそれであり、あくまで参考として理解するようにお願いします。

一方で治療理論とは、人体の構造や機能を基に視点や解釈を加えて治療の方針を具体化したものです。ボバース概念療法にも、治療原則、治療指針というものがあります。

脳性まひ児と成人中枢神経系疾患共通の治療原則 脳性まひ児の治療原則
・評価と治療は一体である
・痙縮への対処
・姿勢トーンの増大(選択的支持性)
・全身性パターンの解離(選択的可動性)
・連合反応を避ける
・促通および治療刺激
・患者の覚醒・意識レベル
・治療テクニックの選択
・セラピストと患者間におけるフィードバック
・患者の学習を援助すること
・障害の多様性
・脳性まひ児の問題点をどのようにみるべきか?
・正常な協調性の発達
・姿勢トーンと姿勢パターン
・子どもに機能的な巧緻動作を準備する
・脳性まひ 感覚ー運動の問題
・姿勢トーンの変容性
・治療テクニック
・評価と再評価
・チームによる連携作業

前述の文献(※1)に書かれた見出しをそのまま表にしたので意味は理解しがたいと思います。文献ではこの見出しに沿って内容が解説されています。「原則」と書かれていますが、その人の状態をどのようなポイントで見れば良いのか視点や考え方を解説しています。
本ではさらに「脳性まひタイプによる治療指針」「脳性まひの治療技術例」「成人片まひ患者へのアプローチ」など、論旨が進んでいます。内容についてはここで紹介するにはあまりに量が多すぎてまとめるのも難しいので、実際に読んでいただくと良いと思います。

ここで疑問になるのが、原則は治療概念に含まれないのか? どこまでが治療概念でどこからが理論なのか? という問題です。実際のところ、概念、理論、技術を明確に分けることは難しいと思います。概念に近づくほど抽象的であり、後述する技術、手技に近づくほど具体的になります。

理論は必ずしも1つとは限りません。ボバースのように原則、治療指針、病態ごとの考え方など、段階や状態に応じて多くの理論を内包している概念もありますし、時代によって変わることもあります。

概念を知らなくても、治療はできるかもしれません。ボバース概念を理解していなくても、ボバースの用いた技術を使うことはできます。しかし、それはボバース療法とは言わないでしょう。おそらく、ボバースセラピストはそのように答えると思います。

治療技術と手技について 〜治療を行う上でのツール(道具)

概念や理論を基にすると、評価するポイントが分かりやすくなり、どのような治療をするか結びつけてくれます。ここから先、実際に治療を行う方法や手段が「治療技術」になります。

概念や理論の中には、具体的な治療内容まで一本化されているものもありますし、行う方法については特に定めていないものもあります。

関節可動域訓練、筋力増強訓練、平衡機能訓練、ストレッチなど普段セラピストが行っている訓練も、いわば治療技術というカテゴリーに含まれると思います。その他、治療を実際に行う中で、より効果的にするために特殊な技術を用いることがあります。「治療手技」と呼ばれるものです。

関節可動域を拡大したい時、組織を緩めたい時、麻痺筋を促通したい時、それぞれたくさんの手技があります 🖐

例えば、最近よく耳にする筋膜リリースも治療手技です。膜組織を緩める技術ですが、どこを緩めるべきかは教えてくれません。PNFも神経筋の反応を促通する治療手技と言えます。こちらもどの筋肉を促通するかは自分で考えなくてはいけません。

これら治療技術や手技は、自分が考える治療を実際に行うためのツール(道具) 🛠 と考えていただくと良いと思います。

道具なので使い方次第で効果が得られないだけでなく、害を及ぼすこともあります 💥

例えば、関節可動域障害を改善したい時、膜組織の問題であれば筋膜リリース、筋緊張の問題であればマッスルエナジーテクニック、関節包や靭帯の問題であれば関節モビライゼーション、筋肉の伸長性の問題であればストレッチや軟部組織モビライゼーション、神経系の問題であれば神経モビライゼーションなど、多くの手技があります。

もし、筋膜の問題であるにも関わらず、神経に治療をしても効果は低いと思いますし、過剰に伸張を加えることで、損傷を引き起こす可能性もあります。

関節可動域に制限があるからといって、特定の手技を使うわけではなく、その制限因子によって選択する必要があります。

治療すべき組織を知るために評価や検査を行い、エンドフィールを確認します。そのためには、基礎科目の知識や触診の技術が大切 ⭐ になります。

膝痛の患者様を例に治療のプロセスを見てみよう

ここまで治療概念、治療理論、治療技術について説明しました。

キャリアの初期においては、何を学べば良いのか、どのように学んだら良いのかわからないという声がよく聞かれます。そのような人たちによく見られるのが、概念、理論、技術の区別ができていない 😟 ことです。患者様の全体的な見方ができていないのに、技術ばかり学んでも使い方がわかりませんし、概念や理論をたくさん知っていても、技術が乏しいと効果が上がりません。

自分に今、どのような能力が必要か考えることが大事です ☝

前回、評価のプロセスをお話しした膝痛の患者様を例に説明します。
まだ読んでいない方は↓↓こちらをご覧ください。
文献ではなくまず患者様をみる ~セラピストの基礎能力を上げる臨床の考え方(リハビリの基礎講座③)

階段を下る時に、上段に残した左膝が痛むとの訴えで、MMTに問題がないにも関わらず、荷重時の膝周囲筋の反応が乏しい状態でした。機能的には脊柱の可動性、足部の横アーチに問題がありました 🤔

脊柱については、可動性に問題があるとはっきり評価ができているので、いかに関節可動域を拡大するのか「治療技術」の課題になります。

手技を知らなくても、運動学に基づいて他動運動を行えますし、ご本人の動作を誘導する中で脊柱の動きを促すこともできます。立ち上がりを行えば、脊柱の前弯・後弯の動きが促されますし、左右にリーチ動作を行えば、側屈・回旋の動きを促せます。

それでも改善が見られない場合は、手技を用いても良いかもしれません ⭐
関節モビライゼーション、マッスルエナジー、スラストなどテクニックは多くありますが、それぞれ適応があります。

制限因子がはっきり分かっていれば迷うことはありませんが、実際には必ずしも明瞭に分かるわけではありません。そのような場合は安全性を考慮して選択します

例えば、マッスルエナジーは本人の筋収縮を利用して可動域の拡大をはかるため、比較的安全性は高いとされています。関節モビライゼーションやスラストは他動的な運動ですが、前者が低速で大きな振幅を加えるのに対して、後者は高速で小さな振幅を加えます。

そうなると、スラストのようなテクニックは、相当な熟練者なら別かもしれませんが、一般的に高齢者のようなリスクが高いケースでは選択することは少ないでしょう。

足部の横アーチについても、脊柱と同様に運動学の知識に基づいて治療することが可能です ☝

しかし、足部のように細かい骨がたくさんあり、複雑な様相を呈する部位の治療は、特殊な分野のように感じるかもしれません。そのような場合は、足部関連の運動療法を学んでも良いですし、足底板の理論を学ぶのも良いと思います。後者は治療自体は必ずしも臨床で手軽に取り入れられるわけではないですが、運動における足部のシステム的な見方については、参考になる部分があると思います。

それら局所の機能的な問題についてアプローチした後は、動作の中でそれが十分に発揮されるかが大切になります。この患者様の場合は、獲得された脊柱の可動域や足部の横アーチが、実際に階段を下りる時に活用されて、主訴である痛みが軽減するかがポイントです。

✍ 私の経験では軽傷例や回復力の高い患者様であれば他動的な治療だけでも良いのですが、患っていた時期が長かったり症状が重い患者様では、治療効果が定着するのに時間を要するように思います。身体になじんだり、その能力が動作の中で統合されるまで時間が必要な印象があります。そのような場合は、他動的な運動だけでは十分ではなくて、自動的な運動の中で動きを出すようなアプローチが必要なように思います。

そのため、場合によっては手技と運動療法の両方を組み合わせても良いでしょう 👈

今回のケースでは脊柱の可動性と足部の横アーチへのアプローチに加えて、階段の動作練習も考えられます。運動学習の理論では、実際に獲得したい動作環境や刺激に近い方がより学習されやすいとされています。その考えでは階段を行った方が良いですが、最初は難易度を下げて平行棒で荷重をかけた反応を見て、次に手すりにつかまりながら低い段差から下りて、最後に階段を用いて、と段階的に試した方が良いのではないかと思います。段階的に行うことでそれ自体が評価や治療効果の判定も兼ねることができます。

治療を学ぶ上で注意したいこと

いかがでしょうか? 治療のイメージや学び方が少しは伝わったでしょうか 😅

キャリアが浅い時期に焦る気持ちはよくわかるのですが、自分が何を学ぶべきか、まず落ち着いて考えることが大切だと思います(やみくもに学ぶのも悪いことばかりではないのですが)。

世の中にあふれている治療法には、ボバースのように概念が念頭にあって、山の裾野のように理論や技術が広がっているものもありますし、裾野の一部分を深く掘り下げたようなものもあります 🗻

それと、歴史の長いもの、短いもの、基礎的な学問に深くつながりを求めたもの、独創的なある視点やシステムに基づいたものなど様々です 📚 歴史が全てではありませんが、長い時間さまざまな人の目に耐えてきたというのは、それなりの意味があるでしょう。ある個人の独創的な閃きによって科学が大きく発展するということもよくあります。しかし、それにおいても背景に基本的な知識があっての独創ですので、その本質をしっかり見極めたいものです 🤔

ピカソの独創的な作品にしても、ひと冬を暖炉で楽に越せるくらいのデッサン量が背景にあります。私たちにとってデッサンが何に当たるのか考えてみましょう。

治療者の中にはある特定の理論や技術に傾倒して、他の治療法について全く理解がないような人もいます。それが基礎的な知識に基づいて確立している理論や技術なら良いですが、治療法の中には言い訳程度に解剖学や生理学と結びつけて、独自の解釈で治療をシステム化しているようなものもあります。

個人で開業して、そのお客様や患者様について最後までフォローができるなら、どのような治療法を用いても良いと思います。ですが、医療機関や福祉施設に勤めていてセラピストとして働いているのなら、自分が必ずしもその人を最後まで担当できるわけではありません。

引き継ぎをする時に、セラピストとしてお互い共通の言語で話せることはひとつの責任です。互いに学んできたものが違うのは珍しいことではありませんが、同じ職種に自分の治療が説明できるようにはしておきたいものです。

概念や理論は、身体という、人智では究めきれない巨大な存在に対して、治療のひとつの道筋を提示してくれます 📖

セミナーで概念や理論を学びに行くと、たいてい技術や手技もセットで教えてくれます。しかし、あくまでそれらは道具であって、状況に応じて使い分けたり、応用を効かせたり、場合によっては他のものに置き換えたりします。技術や手技が道具だと認識できると、治療が考えているよりずっと自由なものだと感じるようになります。そして、違う治療法でも共通点があり、決定的に違う点があることにも気付きます。

それに気付くと、いつの間にか治療法について俯瞰した目で見られるようになります。すると、その治療法について自分なりの吸収の仕方やアレンジができるようになり、ひいては治療の考え方自体が成熟していきます 🌻

多くの治療法があるという事実はそれだけ先人が悩み、いろいろな方法論があるという裏返しだと思います。逆に言えば、自分というセラピストをプロデュースしていくために、それらの概念、理論、技術をカスタマイズしていくこともできます。プロデュース次第で自分というセラピストの将来が変わってきます。

そう考えた方が治療や学びが楽しくなるのではないでしょうか 😊

【参考文献↓↓】
理学療法のスタンダードを知るのに最適な書籍だと思います。第2巻は「治療アプローチ」で、多くの治療法の背景、概念、理論、技術などがまとめられています。この本だけではもちろん全てを学ぶことはできないですが、概論を知るという意味ではとても有用です。執筆されている先生も著名な方ばかりで治療法の辞典的にも使えます。

第1巻「理学療法の基礎と評価」第2巻「 治療アプローチ」第3巻「疾患別・理学療法プログラム」第4巻「疾患別・理学療法の臨床思考」の全巻セットです。