パーキンソン病のリハビリとその可能性(パーキンソン病のメカニズムとリハビリ⑫)

パーキンソン病

パーキンソン病とリハビリテーション

これまでパーキンソン病の記事を続けてきて、その神経機能の原理をよく知ることで、リハビリテーションにおいてもより良いものができるのではないかと期待していました。今回はその私の最終目的であるリハビリテーションについて考えていきたいと思います。

パーキンソン病のリハビリについては「パーキンソン病の診かた、治療の進めかた」(文献1)の以下の箇所(P146)が実に的確に捉えています。

リハビリテーションの効果は古くから言われていたが、最近になって二重盲検試験でリハビリテーションの効果が示されるまでは、プラセボ効果などが入ってくるため不明であった。もちろん運動をすることにより、色々良い点があることは間違いないが、運動することにより、あることが上手にできるようになるとか、あることが少なくなったという証明は二重盲検試験でないとわからない。最近になって多数の二重盲検試験が行われるようになり、リハビリテーションの効果は証明されている。

リハビリ専門職が介入して、適切に運動を一緒に行うことで、運動一般の効用があることはもちろんとして、原疾患に対して何か良い効用があるのかという点が疑問とされていたのでした。それに対して二重盲検試験により、ある程度の結果が出ているということです。下記は文献1で参考文献とされていたものです。クリックするとアブストラクトを読めます。

The effects of an exercise program on fall risk factors in people with Parkinson’s disease: a randomized controlled trial.
Effect of exercise on reactivity and motor behaviour in patients with Parkinson’s disease.

また、「パーキンソン病の医学的リハビリテーション」(文献2)ではパーキンソン病の早期(ヤールの分類stageⅠ~Ⅱ)あるいはそれ以前でのリハビリの重要性を指摘しています。実際に運動症状が表面化するのはstageⅢ以降ですが、それ以前に黒質、線条体の変性は始まっています。リハビリや運動にはBDNF(brain derived neurotrophic factor:血中脳由来神経栄養因子)の分泌促進や神経保護作用の効果があり、早期からリハビリを開始することで、運動症状の発現遅延や予後改善が期待できるとしています。

さらにリハビリの作用について次のように言及しています。

◎リハビリの効果の持続についての報告はあり、ヤールの分類1.5~3度の患者に対する動作、バランス、歩行に焦点を当てた28セッションの1ヵ月間プログラム施行の少なくても終了後1ヵ月目まで、バランス、歩行、身体パフォーマンス、体幹の回旋は優位に改善したとされています。

◎運動は残存ドパミン神経細胞のドパミン産生を促進し、強い運動はシナプス可塑性を最大にし、複雑な活動性はより大きな構造的適応を促進するとの報告があり、運動強度のコントロールにより、さらなる運動効果を期待できる可能性は高いと考えられます。たとえば、高頻度のエルゴメーターを用いた歩行練習で大脳皮質の興奮性が向上し、歩行パラメーターの改善を認めたとの報告があります。

◎さらに、脳内への影響についての報告として、エルゴメーターを用いた運動介入により血清中のBDNF(脳由来神経栄養因子)のレベルが上昇し、固縮の低下、上腕二頭筋における筋緊張の低下を認めたとの報告があります。

◎運動はパーキンソン病患者の脳の可塑性を促通する可能性があり、日頃から運動を継続することは、パーキンソン病の治療において有益と推測されます。

末期にはリハビリは無力か

上述のようにヤールの分類stageⅢほどまではリハビリによる効果が期待でき、神経保護効果やBDNFの分泌促進によって器質的にも役立つと考えられます。一方で、stageⅤのような末期に近い人に対してのリハビリの効果はどうなのでしょうか。そのような人ではすでに全身で組織の変性が進んでいると考えられます。私が普段接しているのもそのような人々で、このシリーズ記事を書き始めたのも、その答えを知りたかったからでもあります。

残念ながら、そのような病期のリハビリ効果について言及したものはありませんでした。病気が進行するにつれて、運動障害だけでなく全身状態の低下や周辺症状も強くなるので、おそらくリハビリを滞りなく行うだけでも難しくなってきます。今回、記事を書くにあたってパーキンソン病の機序をよく調べましたが、知れば知るほど、進行したパーキンソン病に対してリハビリは無力だと感じざるを得ませんでした。

もちろん、病期が進むにつれて運動を行うことが難しくなり、そこで専門職が介添えして運動を行うことは意義のあることですし、現状機能における環境整備や生活動作訓練を行うことも、その患者様にとって有意義だと思います。

しかし、その患者様の病態が進んでいくことについては、ただ見守るしかないのかと痛切に感じました。パーキンソン病で運動障害が起きるのは黒質が変性してドーパミンが産生されなくなることで、大脳基底核による大脳皮質や周囲器官への抑制が強くなることが主な原因です。だとすれば、根本的な解決というのは変性を進めるα-シヌクレインの凝集化を予防することや、その次の段階としてはドーパミンが産生されやすいようにすることですが、それを徒手で実現することが難しいのは明白です。

頭蓋治療などで脳組織が働きやすい環境を作ることはもしかしたら可能かもしれませんが、末期のパーキンソン病ではすでに組織自体が大きく変性しているはずなので、残存機能もどれだけあるか厳しいものがあると思います。

リハビリの可能性

ここから先は私の想像に過ぎませんが、リハビリの可能性について少し考えてみたいと思います。上述のような末期の患者様であっても、私がかつて経験したように改善を示すことは必ずしも皆無ではありません。

→参考記事:「なぜ、そこまで傾かなくてはいけないのか? ~パーキンソン病の姿勢障害について

この利用者様は退院後の職員たちの対応に感激したことが改善のきっかけでした。精神的な要素で強い刺激を受けて、脳組織の活動が高まったのではないかと推測されます。このケースからは、組織の変性がある程度進んだ患者でも、何らかの刺激で脳を活性化させることができれば、あるいは能力的な改善ができる可能性を示唆しています。

また、前回の記事で便秘によりパーキンソン病のリスクが高まる説を紹介しました。便秘がパーキンソン病のリスクなのか、あるいは何かの原因が便秘とパーキンソン病両方を引き起こすのは不明です。しかし、腸でα-シヌクレインが産生されるとすれば、腸の環境を良くすることでパーキンソン病の予防につながるかもしれません。ただし、もしこれが実現したとしても症状が出る前に対処してしまうので、本当に予防したのか効果を実証することは不可能でしょう。

→参考記事:「パーキンソン病の自律神経障害(パーキンソン病のメカニズムとリハビリ⑪)

まとめ

パーキンソン病とリハビリテーションについて、想像的な可能性も含めてまとめました。早期のパーキンソン病については研究結果からリハビリの効果が立証されつつあります。一方で、末期については運動や介入の必要性は認められますが、治療の器質的な面への効果は徐々に厳しいものになっていきます。患者様や家族のリハビリへの期待は高いものがあります。リハビリ従事者としても日々の研鑽、向上が求められます。

主な引用・参考文献

1)水野美邦「パーキンソン病の診かた、治療の進めかた」中外医学社.2012
2)林明人(編)「パーキンソン病の医学的リハビリテーション」日本医事新報社.2018
3)山永裕明、野尻晋一「図説 パーキンソン病の理解とリハビリテーション」三輪書店.2010