文献ではなくまず患者様をみる ~セラピストの基礎能力を上げる臨床の考え方(リハビリの基礎講座③) 

まほせら式 リハビリの基礎講座

アイキャッチ画像が看護協会のポスターみたいになっていますが 😅

学校を卒業し国家試験に合格しても、セラピストの能力というのは横並びではありません。だいたい学生時代に大きく差がついています。

私が初めて病院に就職した時、他に同期が5人いました。うち、1人がとにかく優秀なセラピストで、もともと地頭がだいぶ違ったのでしょうが、臨床でも付加業務でもとにかく比べものにならないくらい活躍していました。残りの4人も仕事をそつなくこなしていて、私はちょっとした落ちこぼれでした。

今になって考えると、当時思っていたよりも同期たちとは差があったのではないかと思います。何が分かっていなかったかと言えば、そもそも勉強の仕方もろくに知りませんでした。

ある日、残って文献を読んでいた私に先輩が「文献を読むのも悪くないけど、患者さんをしっかり見ないといつまでも分かるようにならないよ」と声をかけてくれました。その頃はこの言葉の意味もよく理解できていませんでした。分かるようになるには少し時間が必要でした。

学生時代にバイザーだった理学療法士は「解剖学や運動学って言うのは俺らの飯のタネなんだから」とよく言っていました。この内容についても本当に身に染みて分かるまでには時間を要しました。

文献を読むことは悪くないのですが、その内容を患者様に当てはめるのは、必ずしも正解ではありません。

例えば「変形性膝関節症の治療」という文献があったとします。変形性膝関節症の病態、評価法、基本的な運動療法が書かれています。書かれていた通りに関節可動域、MMT、FTA(femoro-tibial angle)、姿勢評価、動作分析、痛みスケールなど検査して、関節可動域訓練、筋力訓練、物理療法を行います。それではたして良くなるのでしょうか?

私がそういうセラピストでした 😣

このような方法だと、同じ疾患名だと誰でも同じような訓練内容になり的確に訓練を行えている実感も、問題点に対処できている感覚もありません。おそらく効果も今ひとつで、さらに言うと成長にもあまりつながりません。
ここには大切なことが欠けていて、患者様を検査して評価しているつもりでも全然そうではなく、見ているのは患者様ではなく文献になっています。セラピストとしての成長は、患者様を通じて疑問を持ち、自分で考える中で進んでいきます。そのための助けになるのが基礎科目(解剖、整理、運動学など)の知識です。
臨床で疑問も持たず、考えることもしない状態では、文献やセミナーから得られるものも少ないです。普段から疑問を持ち、答えを探しているからこそ、目の前にヒントが来た時に気付くのです。

しかし、急に”患者様を見る”と言ってもイメージが沸かないかもしれません。ここからは実際に例をあげて、どのように評価を進めるのか、その中で基礎科目がどのように絡んでいくのか見ていきたいと思います。

ここでは膝が痛くて来院された高齢者を例に評価してみよう

先ほどの例で言えば「変形性膝関節症」という診断名であっても患者様それぞれで状態は違います。
リスク管理や最低限の情報として頭に入れておく必要はありますが、やはり自分で見てどのような状態か評価する必要があります。これが理解できていないと「膝関節症だからこの治療」とか「脳梗塞右片麻痺だからこの治療法」というルーティン的な思考に陥ってしまい、結果的に十分な治療には行き着きません。
ここでは「膝が痛い」との主訴で来院された患者様を例にあげて説明していきます。
診断名は変形性膝関節症とします。

情報収集・視診・問診

まず、実際に検査を行う前に情報収集を行います。疾患に関する情報や、医師、看護師の所見、画像などを確認します。ここからは注意すべきリスクや、チーム全体の目的などを知ることができます。

続いて患者様と実際に対面して、視診や問診を行います。事前に得た情報を頭に入れつつ、それにとらわれ過ぎないようにします。過去の記録と現在の状態が違うことがありますし、同じ相手でも人によって受ける印象が変わります。自分の目で見て、耳で聞いて、感じたことが大切です。それを他のスタッフの所見と重ねることで、より客観的な情報となります。

問診では多くのことを知ることができます。今回の膝が痛い方であれば、どのような時に痛いのか聞いておけば、動作分析のポイントを絞ることができます。

痛みの経過を聞くことで急性症状なのか、回復過程にあるのか、あるいは慢性症状なのかヒントになります。既往歴や合併症を聞くことで膝だけの問題なのか、他の部位の問題が影響しているのか考えることができます。

リハビリに対してどのように考えているかも大切です。リハビリで成功体験がある人とそうでない人では受けいれが違います。運動することが大切と思っている人とマッサージが効果的と考えている人では、訓練に対する取り組みが変わります。本人の志向が全てではありませんが、方針について複数の選択肢がある場合は、本人の受け入れやすい方法を用いるのも手段です。

家族には発症前の状態を聞くと良いでしょう。高齢者では、発症以前から障害を持っていることも少なくありません。発症前の状態は目標設定の目安になりますし、時系列で把握することで障害像がより明確になります。

動作の評価

よく言われることですが、患者様が部屋に入ってきた時から評価は始まっています。その歩き方、動きから多くの情報が得られます。一瞬で患部や原因を見抜くのは難しいかもしれませんが、動作からヒントを得て検査を行うことで、問題を絞っていくことができます。

まず「どのような動作で膝に痛みが出るのか」を確認します。

歩いた時に痛いのか、階段で上り下りする時に痛いのか、立ち上がる時に痛いのか、いずれも痛いのか。階段にしても上がる時は痛くないけど、下る時は痛いという人もいます。
今回は階段を下る時に、上段に残った方の膝が痛いとします。仮に左膝が痛いとしましょう。
本来、健常な身体であれば階段を痛みなく下りることができます。しかし、この人の身体は何らかの理由でそれが上手くできないということです。階段を下りる時、上段に残った左膝への負担に対して十分な制御ができていないと言えます。

階段から下りる時、身体はどのように動くものなのでしょうか? まずそれを知ることが大切です。
文献を読み、実際に自分で階段を上り下りして確かめてみます。おそらく患者様は自分と同じ方法で階段を下りていないはずです。上段に残っている側の股関節が外旋していたり、骨盤が後傾して重心が後ろに残っていたり、階段のステップに足趾までまるまる残っていたり(問題がなければ足趾くらいは階段のステップから出ているはずです)、健常な動きと違いが出てきます。

動作を十分に理解するには運動学の知識が必要です。文献で調べるのも良いですが、細かい動作になってくると運動学の知識をもとに自分で推論していく必要があります。スポーツ分野では動作時の関節運動についてもっと詳細に考える必要があるかもしれません。そうなると物理学の知識も多く必要になるでしょう。

動きが違うのには理由があります。単純に痛みをかばっている場合もありますが、関節可動域の問題があったり、十分な筋機能が発揮できていなかったり、平衡機能に問題があったり、あるいはそれらが複合している可能性もあります。痛みが理由で動作が変わることもありますが、動作が適切でないために痛みが発生することもあります。

まず、そのような動作が起こっている原因について考えます。そして考えた原因について検査をすることで正しいか確認します。

この作業により動作と機能的問題が結びつきます。今回は検査項目として、痛み、関節可動域、筋機能、姿勢、アライメント、平衡機能をあげます。ごくありふれた検査ですが、内容は奥深く、十分に行うには知識と技術が必要です。

機能的検査

ここでは問題となる動作について、検査を行うことでその原因を特定していきます。「痛み」「関節可動域」「筋機能」「姿勢、アライメント」「平衡機能」を例に考え方を書いていきます。

①痛みの検査・評価

セラピストが関わる主訴のうち多くを占めるのが「痛み」です。それだけ人間の苦しみに密接に関わる問題と言えます。

今回の膝が痛い患者様であれば、痛みはなぜ起こっているのか、現在どのような状態なのか知ることが評価の中心になります。

症状に対して他の職種であれば薬剤の視点で考えることが多いですが、セラピストは解剖、生理、運動学の視点が武器であり、それと関連付けて評価・治療していくことが大切です。
ここでは痛みについて大まかな状態を把握し、詳細な検査につなげていきます。治療前後の効果判定をするためにスケールなども用います。

・急性痛の有無
まず痛みの状況について確認します。状態によって検査や治療の負荷を考慮する必要があるためです。問診、視診、触診などで確かめます。客観的所見として炎症徴候がないか、発赤、熱感、腫脹を見ます。それらの症状が強い場合や安静時痛がある場合は、その部位の積極的な運動は避けて、炎症軽減のための物理療法や、普段の生活で負担が減るような動作指導を行うことが考えられます。また、痛みの真の原因は実際に痛みのある部分とは限らないので、炎症が起こっている部位以外を治療するという選択肢もあります。

・動作のどこの過程で痛みがあるのか

「動作の評価」の項で書いたように、どのような動作のどこの過程で痛みがあるのか、知ることはとても大切です。大まかな動作や問診からポイントを絞り、場合によっては痛みがある動作を再現してもらって状態を確認します(痛みを増強させるリスクがあるので実施には十分な配慮が必要です)。技量にもよりますが、セラピストによってはこの評価だけでも原因がかなり絞れると思います。経験が浅いセラピストであれば多くの検査が必要になるかもしれませんが、それでもいくらか絞ることはできると思います。まずは動作のどこの過程、要素で痛みが出るのか、それだけは把握しましょう。

・整形外科的検査
膝の場合でしたら、アプレー牽引テスト、アプレー圧迫テスト、マックマレーテスト、前方、後方引き出しテスト、内反、外反ストレステストなど、靱帯、半月板の痛み誘発テストは多く存在します。痛みや動作についてどのような組織が問題なのか、どこの組織が痛みを起こしているのか候補を絞ることができます。また、過可動性も確認することができます。これも痛みの状況を作り出すような検査ですので導入には注意が必要です。過度の実施は禁忌です。

・痛みスケール、痛みの質
どれくらい痛いのか? この問題は患者様にとって非常に切実です。治療効果や経過を判定する上でも、痛みの量の評価は有用です。痛み量の評価にはスケールがよく使われます。視覚的評価スケール:VAS(Visual Analog Scale)、数値評価スケール:NRS(Numerical Rating Scale)、表情尺度スケール:FRS(Face Rating Scale)などがあります。
また痛みの質についても原因を知る上で大きな情報になります。痺れに近いもの、針で突き刺すようなもの、重くだるいもの、はっきり部位が分かるもの、ぼんやりして部位がはっきりしないものなど、同じ「痛み」という言葉でもその質は大きく異なります。その訴えによっては検査する部位や項目を絞ることも可能です。

痛みのメカニズムは複雑で、目の前の患者様の痛みを明確に評価することがいかに難しいか、多くのセラピストが悩んでいると思います。痛みを理解するには生理学の知識が大切です。もちろん単純な痛みは侵害受容器の興奮ですが、化学物質や中枢からの介入が絡むことで複雑な様相を呈します。例えば、筋肉の内圧が上がると血管を圧迫して発痛物質が産生されます。肩こりや筋筋膜性の疼痛はこれも原因のひとつです。さらに話を広げると、精神的なストレスなどで交感神経の興奮が過剰になると、交感神経の遠心性刺激が触覚や痛覚の求心性線維を刺激します。また交感神経の興奮は血管を収縮させて、筋緊張も亢進させます。そのことにより発痛物質も産生されやすくなります。全てがわかるわけではありませんが、知識があることで患者様の病態をより理解することができます。

【参考文献 ↓↓】
痛みについて専門書ではこれ以上ないというくらいわかりやすく書いています。読みやすいので通読も比較的ハードルが低いのではないでしょうか。反面、もともと知識があって詳しい内容を求めている人には少し物足りないかもしれません。入門書として良いと思います。

まえがきには「IASP(国際疼痛学会)の理学療法士および作業療法士のための痛みカリキュラムの随伴書として使われるように作られており」と書かれています。原著の発行が少し古いことと内容が難易度高めです。しかし上の本に比べると細かいところまで網羅されているので、参考書として補足的に用いるのなら良いのではないでしょうか。
②関節可動域の検査、評価

動作と関節可動域は切り離せない関係です。動作ができるかだけでなく、円滑に負担少なく行えるかという観点でも重要です。

関節可動域を的確に評価するには、その動きやメカニズムをよく知る必要があります。本来どのように動くものか理解していないと、異常を感じることもできません。

例えば膝関節は屈曲伸展がメインの単純な動きに見えますが、わずかな軸回旋があります。最終伸展域近くで起こる内外旋は「スクリューホームムーブメント」と呼ばれ、正常歩行の重要な要素です。
肩、股関節は動く方向も多く、足部、手部では多くの小さな骨が関節を構成しています。脊柱では部位ごとに形状や運動方向が変わります。それらの特徴や関連を理解していないと、細かい部分で正常か異常かの判断ができません。

可動域制限があると漠然と分かっても、その部位を走行している組織の知識がないと制限因子が分かりません。
関節を動かすと最終域で伝わる感触(最終域感:エンドフィール)があります。技量の高いセラピストであればその感触で制限因子を推測できますが、解剖を知らないとイメージができないため、感触があっても認識ができません。

動作において1つの部位だけ動いているということはありません。肩が屈曲するにしても、肩甲上腕関節、肩鎖関節、胸鎖関節、肩甲胸郭関節が精巧に動いていて、さらに脊柱も連動して伸展します。下肢の運動のように見える歩行でも下肢、骨盤だけでなく、脊柱、肩甲帯、上肢の動きがあります。
そのつながりは運動において相互に影響を及ぼします。このような複数の関節のリンクした動きを「運動連鎖」と呼びます。運動連鎖において、ある部分に問題があると、それ以外の箇所に負担がかかります。そのため、評価では患部だけでなく、問題の動作に関連する全ての関節に留意する必要があります。

今回の患者様であれば、階段を下りる時に、上段に残った左膝が痛むということでしたので、まず左側の膝関節、股関節、足関節は可動域検査を細かく行います。
階段を下りる時、上段に残る下肢にどのような動きが必要になるか考えてみましょう。膝関節は屈曲、足関節は背屈方向に大きく動きます。股関節は最初に伸展して下段に移るにしたがって屈曲します。重心を残すためにわずかな内転の動きもあります。
一時的に片脚になりますのでバランスも大切になってきます。バランスの調整に必要な脊柱の動きも大まかに確認し、必要であれば詳細な評価を行います。下肢の支持性が上手く出ていないようなら、足部のアーチ機能を確認しても良いでしょう。後述しますが、下肢の支持においてアーチは重要な働きをします。
下段に接地する右側の下肢も重要です。例えば膝に屈曲拘縮があって十分に伸展しなければ、その分、接地までの時間が長くなり、上段に残った下肢の負担が大きくなります。
他にも技術的に可能であれば仙腸関節の動きや、各関節の遊びを確認するのも役に立つと思います。

どの疾患においても関節可動域の検査はまず行う項目です。ありふれた検査ですが、その技法や解釈については簡単なものではありません。関節の扱いをマスターすればそれだけでも相当な手技療法の技量になると思います。それだけ奥深く難しいものと言えます。
関節の異常を見つけるにはまず正常を知らなくてはいけません。触診や治療の技術を伸ばそうとしても、知識がなければ部位のイメージができないので習熟も滞ります。遠回りのようでも解剖学など基礎科目の知識を身につけることが、結果的に成長への近道になるのではないかと思います。

【参考文献 ↓↓】
解剖学書については別記事でまとめて紹介したいと思います。ここでは運動連鎖についての書籍2冊を紹介します。「運動連鎖~リンクする身体」は運動連鎖をテーマにした珍しい書籍です。「新人理学療法士へひとこと」というミニアドバイスがところどころにあって、若手を対象にしているようですが、私みたいな経験を積んだセラピストでも参考になる部分が多かったです。経験的になりやすい運動連鎖という知識をまとめて記している点が素晴らしいと思います。

「結果の出せる整形外科理学療法」
山口光圀先生、福井勉先生、入谷誠先生というビッグネーム3人が共同執筆している豪華な書籍です。非常に細かく運動学や重心に対する身体の反応が書かれています。入谷先生が執筆されているだけあって、足部に対しても非常に多くのページが割かれています。スクワットについて股関節の屈曲角度の違いによる作用筋の違いや、歩行立脚時の足部で床反力がどう移動しているかなど、臨床で使えそうな知識も多く書かれています。難点はどこに何が書かれているか非常にわかりにくく、調べもので使うには扱いにくいです。しかし解剖や運動を考える上で役立つ情報がたくさん書かれています。難易度は若干高く、自分で臨床思考がある程度できるようになったセラピスト向きかと思います。
③筋機能の検査、評価

身体を動かす機能を持っているのは筋肉だけです。その評価は外せません。ただし、筋機能というのは必ずしも多くの検査をするわけではありません。例えばスタスタと歩いてくる人に対して、最初の段階で下肢の筋力検査をすることはありません(スポーツなどで普通よりも強い筋力が必要な場合は別です)。動作分析をすれば大まかな状態が把握できるので、実際には問題が考えられる点に絞って検査を行います。
例にあげている患者様の場合は階段の下りる時に、上段に残った側の膝が痛いとのことで、その膝付近の筋機能がどうなっているのか四頭筋のMMTを検査しても良いと思います。しかし、筋機能というものは単純な最大筋力があれば良いものではなく、適切なタイミングで適切な収縮が起こることが大切です。

適切な筋収縮には感覚機能が重要です。この場合は触覚、温痛覚よりも、圧覚、振動覚、位置覚、運動覚などが重要になります。位置覚、運動覚など深部感覚が適切に働くには、関節可動域、筋緊張、アライメントが良い状態に保たれている必要があります。

例えば、歩行時の踵接地から立脚中期までの動きでは、反対側からの荷重が徐々にもう片方の下肢に移ってきます。この時、接地した足部では、踵から立方骨、楔状骨、中足骨などを経て母趾の末節骨へと床反力の中心が移動します。床反力は関節の微細な動きやそれに伴う筋肉や軟部組織の伸張を発生させます。これが筋紡錘や受容器を介して運動や位置を知らせます(これが足部アーチの大切な役割のひとつです)。

関節可動域に問題があれば、このような動きがなくなり、筋肉の緊張が適切でなければ関節の動きを正確に感知できなくなり、アライメントが崩れていると本来の方向に関節が動かなくなります。
いずれに問題があっても深部感覚の入力は減少します。そうなると筋収縮のタイミングの遅れや、必要な筋力が発揮できない可能性があります。

膝の痛みがある方でしたら、立位で荷重をかけた時に膝周囲筋がしっかり収縮しているか。それを見ることで(階段とは若干環境が違いますが)、荷重時の反応を推測することができます。平行棒につかまってもらい負担がかかり過ぎない環境で、膝周囲に手を触れて確認してみると良いと思います。通常の立位の状態と、患部に少し荷重を移した時の状態を比べてみるとわかりやすいと思います。

より問題の動作と近い状況で評価がしたければ、平行棒内に低い台を用意してそこから下りる動作を行ってもらうと良いと思います。階段で行うよりも本人の負担が少なく、検査する側も筋肉に触れることができるので、より詳細に確かめられると思います。

これら感覚と筋機能を関連させた検査は、MMTのように数値で表わされるものではありません。それを問題視するセラピストもいます。しかし、治療方法の判断材料や効果判定をする上では有用だと思います。どのような状況で筋収縮があったのか、あるいは見られなかったのか、痛みがあったのかなど、段差を変えて比較しても良いですし、左右差で表わすこともできます。数値で評価できなくても、そのような努力をすることは大切だと思います。

④姿勢、アライメントの評価

姿勢は多くの情報をくれます。身体の問題が姿勢に現れることもありますし、日常の姿勢が問題を引き起こすこともあります。動作から問題点を推測したように、姿勢からも問題点を導くことが可能です。また治療効果の判定に用いることもできます。動作の変化だけでなく、姿勢の変化も補足的な指標として評価に加えて良いと思います。

アライメントとは「一列に並べること」「機械装置のさまざまな部品を調節すること」という意味ですが、医療用語では骨、筋肉、関節などの位置関係を表します。例えば「脊柱のアライメントが崩れている」と言えば、脊柱の位置関係が崩れて歪んでいることを示します。セラピストが検査で「姿勢を見る」と言えば、その姿勢をどのように保っているのか位置関係(アライメント)を見ていることが多いと思います。

アライメントが本来の位置から崩れることで、ある筋肉は過剰な収縮が必要になり、ある組織は圧迫されて血流が滞るといった現象が起こります。人間の身体は重力に対して、いかにエネルギー少なく姿勢や動作を行えるかということが重要です。アライメントの崩れはそれを障害する大きな要素になります。

今回の膝が痛いという患者様でいえば、臥床位で大腿骨と脛骨の角度(FTA)もアライメントです。他にも座位や立位の姿勢で異常がないか全身を見ます。重症になればまず間違いなく何らかのアライメントの異常があります。
問題があれば、さらに関節可動域、筋緊張など機能的検査を行い、その原因を考えていく必要があります。今回の患者様は膝の疾患ですが、神経難病などでは中枢神経由来でアライメントが大きく崩れることもあります。

複数の関節の動きが絡むので、アライメントの正確な評価はなかなか難しいです。座位姿勢で一見、片方に傾いているようでも、脊柱のある部分は片方に側屈して、別の部分は反対に回旋しているということもよくあります。正確に把握するには知識だけでなく触診の技術や経験も必要です。しかし、考えることを重ねることで次第に全体像がよく見えてくると思います。

アライメントというと主に骨と骨の位置関係を見ますが、ひとつの骨の中で変形していることもあるようです。骨折の保存療法後でたまに見られますが、スポーツでの局所への強い負担や、異常な姿勢でも変形は起こるようです。骨の代謝は重力の圧力で促進される部分がありますので、それが本来の位置、方向から長い期間外れることで変形が助長されるのかもしれません。そのような所見を感じたら、X線像を見て確認すると勉強になると思います。
⑤平衡機能

関節にかかる負担は、重心(作用点)、関節(支点)、筋肉(力点)が関与します。おそらく教育課程で関節の負担に関する物理を勉強したと思いますが、少し重心(作用点)が関節(支点)から離れるだけでも大きくモーメントが増加します。体重を支える上で重心線の位置は重要で、それを調節しているのが平衡機能と言えます。
平衡機能は脳に中枢があるわけですが、たとえ中枢や伝導路が正常であっても、形にする運動器に問題があると十分な機能が発揮できません。
中枢神経疾患であれば中枢の問題もあると思いますが、今回のような膝が痛いという患者様の場合は、脊柱、股関節、足関節といった関節かそれに関連する組織の問題を最初に考える方が自然でしょう。
立ち直り反応を検査してみて、問題のありそうな部位についてさらに関節可動域など機能的検査を行います。座位で立ち直り反応がしっかり出るのに、立位で上手く行えないとすれば、股関節や足関節に問題がある可能性を疑いますし、逆の場合は脊柱の問題を最初に疑います。もちろん立位であっても脊柱の要素はありますし、座位においても下肢のカウンターが立ち直り反応を出しやすくするので、あくまで目安と考えてください。

歩行時、床反力が足部の関節を動かし、それが受容器を通じて感覚として認識されて、反応として筋肉が収縮すると「筋機能の検査、評価」のところで書きました。平衡機能についても、身体の傾きという刺激に対して、三半規管、視覚、関節、筋の深部感覚などにより脳に情報が伝達されて、反応として筋肉の収縮するという同じ「感覚-運動」の機序です。平衡機能を中枢による単純な反応ではなく、感覚器や関節、筋などを介した「動き」と考えてもらうと良いと思います。

評価がしっかりしていると治療は自然に導き出される


いかがでしょうか、簡単ではありますが評価の流れを感じてもらえたでしょうか。基礎学問と臨床が至るところで結びついていたと思います。

患者様の状態に基づいて評価と検査がしっかり行われていれば、治療すべき対象は自然と導き出されます。

今回の患者様でいえば、例えばMMTに問題がないにも関わらず、接地時の膝周囲筋の反応が乏しかったとします。膝をはじめ左右とも下肢の可動域制限はなかったものの、平衡機能に問題があり、脊柱の可動域に一部制限があったとします。また足部アーチについても横アーチに崩れがあったとします。
そうなると脊柱の可動域を改善する関節可動域訓練と、足部アーチを再構築するような筋力訓練が考えられます。さらに脊柱や足部アーチの機能と階段を下りる動作が結びつくような練習をしていくことも考えられます。

実際にはこのようにきれいに問題点が出てくるわけではありません。多くの問題が複雑に絡み合って混沌としています。その中で主訴に対する主要な問題とそうでない問題を分けて優先順位を付けていく必要があります。

また、慢性的な障害にはそれができた流れがあります。例えば、①日常的な偏った姿勢があり、②ある筋肉の緊張が出現し、③それが関節の拘縮を生み、④さらに二次的な筋緊張が出てきて、⑤痛みが出現したとします。
この場合、⑤に対して物理療法で対処したとしても、よほど軽い障害でなければ、多くがすぐに元の状態に戻ると思います。また、一見して痛みがなくなったとしても、その根本的な原因は解決されていない可能性があります。①の日常的な習慣から直せば良いように思いますが、すでに身体の状態がその習慣に適応しており、本人の意思だけでは直せない時もあります。では②~④のどれに対処すれば良いかと言うと、時系列的に前の段階を治療した方が良い時もあれば、障害の程度が強い箇所を治療した方が良い場合もあります。ひとつを治すことで他の問題も解決する場合もありますし、全てに対処しなくてはいけない場合もあります。ケースバイケースと言えます。

問題が多くある中で、どの部位を先に治療するかというのは、多くの先人たちが考えてきた難しい問題です。推論を立てて治療を行い、効果を確かめるという繰り返しが必要な時もあります。考えもせずにやみくもに治療するのは慎むべきですが、完璧もまた難しいものです。

むしろ悩むのが自然なことです。いくつもある問題点からひとつに絞れるのは良いことですが、経験が浅いうちからひとつの問題しか見えないとすれば、それはおそらく問題に気付いていないだけだと思います。
すぐに答えを見つけたい気持ちはよく理解できますし、定型的な治療について書かれた文献を読むことも否定はしません。それと同時に目の前の患者様について地道な評価を行い、基礎的な学問について照らし合わせる作業も続けてほしいと思います。それが遠回りに見えても、実は近道であったといつか気付くと思います。

治療に関しての考え方や学習方法については、また別記事でも書いていきたいと思います。

「上手くいかない」は当たり前のこと

ここまで読んできて「こんなに上手くいかないよ 😣」という意見もあると思います。

そう、実際に他人から教えてもらうことは「こんなに上手くいかないよ」ばかりだと思います。セミナーに参加して成長した気分になっても、臨床で試してみると上手くいかないことが多いのではないでしょうか。

セミナーで教えてもらうことは、講師にとっては間違いなく役に立った内容で、むしろ受講者のレベルに合わせて難易度を下げているはずです。しかし、講師にはそこに至るまでの経験や知識があり、それまで教えることはできません。

その技術を使うための積み重ねがあり、それは与えられる知識ではなくて、おそらく自分で考えて実践を積まないと身につかないものです。

セミナーで得られるものはパソコンでいえばアプリケーションの単品で、それは自分で取り込まなくてはいけません。互換性は全く保証されていない状態です。パソコンをグレードアップして互換性を高めるか、インストールのための知識を身につけて取り込んでいくしかありません。

「パソコンのグレードアップ」というのがセラピストとしての基礎力を向上させることです。基礎科目の知識や、技術でいえば触診や自分自身の身体の使い方に当たります。実際の治療の中でそれらを活用し、日々向上を目指す中で実学として身についていきます。

「インストールのための知識」というのはこの場合、書籍やセミナーで上手くいかないところから、追究していくことです。なぜ上手くいかないのか、分からないことを調べながら、臨床で使えることを目指していきます。私もセミナーでは講義について行けないことが多々あります。しかし、振り返って1年前と比べるとやはり以前より理解できることが増えています。私の友人のセラピストはひとつの本を徹底的に何年も勉強し続けるという方法を取っています。これも素敵な勉強法だと思います。すぐに使いこなせなくても「これ」と決めた書籍や治療法のセミナーがあるなら、それに出席し続けるのも良いと思います。ただし、できないことや分からないことを追究していくと、結局のところ、基礎的な内容を学ぶところに行き着くので、少なくても初期の段階では上に書いたことと同じになるのではないかと思います。

自分のレベルが上がっていくと、必要なものが何かわかってきます。書籍やセミナーから受け取れるものも多くなります。他人から与えられるのでなく、自分で手に入れる感覚になると思います。学びが自分でできるようになります。

そうなったらセラピストとして一人前なのだと思います 😊