パーキンソン病の自律神経障害(パーキンソン病のメカニズムとリハビリ⑪)

パーキンソン病

パーキンソン病の4大徴候は運動障害について述べていますが、それ以外にも日常生活に大きな支障をきたす症状があります。パーキンソン病の早期は運動症状が中心ですが、症状が進むと自律神経障害が出現します。しかし、最初の病変が延髄の迷走神経背側核と嗅球から始まることを考えると、強い問題として表面化していないだけで、早期から自律神経障害が存在している可能性が示唆されます。ただし、症状の初期に著しい自律神経障害が見られる場合は、多系統萎縮症との鑑別が必要になってきます1)

今回はパーキンソン病の自律神経障害として「便秘」「排尿障害」「起立性低血圧」を中心にまとめます。

便秘

パーキンソン病における便秘の頻度は6~7割とされています。パーキンソン病患者では大腸通過時間が著明に延長していると報告されています1)

その要因は直腸からの排泄困難と消化管の通過障害に大別されます。前者の原因としては運動障害により、上手く腹圧をかけられないことと、括約筋の弛緩と協調できないことが考えられます。病気の進行により投薬が長期化することで薬の効果も減退し、そのリスクはさらに高くなります。

後者の原因としてまず挙げられるのが前述の迷走背側核の変性で、この部位は骨盤臓器を除く全ての内臓の副交感神経支配を司っています。消化管の副交感神経支配の低下・消失が腸の蠕動運動障害を来たすと推測できます2)

また、レビー小体が筋層間神経叢(アウエルバッハ神経叢)、粘膜下神経叢(マイスネル神経叢)から発見されていて、それはごく早期から存在しているという説もあります。筋層間神経叢は腸管の蠕動運動を調節し、粘膜下神経叢は粘膜筋板の運動や腺分泌に関与します3)。これらが障害されるとことでも腸の蠕動運動は低下します。

つまり、パーキンソン病では腸の蠕動運動に関する中枢も末梢も障害されると言えます。また、抗パーキンソン病の副作用には腸の蠕動運動を妨げるものが多く、その点も排便障害を助長します。

便秘は運動障害の出現の20年前ほどからは存在していて、早い場合には40年前に存在するとも言われています。便秘がパーキンソン病のリスクになるという報告もあります2)

便秘が先なのか、パーキンソン病が先なのか不思議な論議のようにも思いますが、それに関係する興味深い研究があります。筋層間神経叢や粘膜下神経叢で発見されているレビー小体ですが、その前駆物質であるα-シヌクレインが腸細胞で作られて、迷走神経を上行しているという仮説です。つまりパーキンソン病は腸から発症して脳に伝播するという説です。もしそうだとしたら、便秘がパーキンソン病のリスクになるのも頷けます。

この説がどのくらいスタンダードなのかは私に確かめる手段がないのですが、リンクを貼っておきますので、興味がある方はそちらを読んでみてください。

Johns Hopkins University School of Medicine:「New research shows Parkinson’s disease origins in the gut」medicalxpress.com

排尿障害

排尿障害は膀胱に尿を留めておけない「蓄尿障害」と、たまった尿を出すことができない「排出障害」に分かれます。パーキンソン病患者の場合、後者は少なく、症状があっても軽度とされています1)

「蓄尿障害」の代表的なものが「頻尿」です。運動症状発症前に頻尿があるかという問題ですが、Sammourの調査によれば、平均罹患期間12.3±7.2年の集団において、頻尿に関する症状は3.8±3.4年続いていて、50%の患者では運動症状発症後7.5年以内、10%の患者では1.5年以内であったとされています2)

これを考えると、便秘とは違って頻尿については、大部分でパーキンソン病→頻尿の流れが成り立つように考えられます。

排尿中枢は視床下部、前頭葉内側部と橋にあります。このいずれが障害されても頻尿は出現しますが、文献2では頻尿がパーキンソン病の経過の中で比較的早期に出現する症状ということを考慮して、橋の排尿抑制中枢の障害が主たる原因ではないかと推測しています。

パーキンソン病の頻尿では夜間の睡眠を阻害して日中の傾眠を引き起こし、間接的に転倒のリスクを増加することも考えられます。

起立性低血圧

起立性低血圧はパーキンソン病患者の2~5割に認められると言われています。病気の初期ではほとんど見られず、ヤールの分類stageⅣ以降になると高頻度で見られます1)

パーキンソン病では血圧が低いことが多いと言われています。起立により一部の患者様は失神を起こすことがあります。失神までいかなくても、起立によりめまい、ふらつき、気持ち悪さを訴えることもあります。一方で座位で収縮期血圧が100mmHg以下でも自覚症状がない人がいます。

私もパーキンソン病の患者様と運動する機会が多いのですが、起立性低血圧は日常生活やリハビリの大きな支障になります。前述のように立位で失神する方もいましたし、座位で失神するけど歩行中は起こらない人もいました。精神的な緊張があるうちは持ちこたえていたのかもしれません。自覚症状がないまま失神する人もいれば、めまいやふらつきの訴えはあっても、危険認知がなくて立位や歩行をすることに躊躇がない人もいました。

人それぞれ起立性低血圧でも若干症状の違いがありましたが、共通しているのは、確かにそれらの人々はヤールの分類stageⅣ以降でした。しかし、stageⅤで運動がほとんどできなくなった方でも、それほど起立性低血圧が目立たない方もいるので、症状がどれだけ前面に出るかは個人差が大きいように感じます。

起立性低血圧の責任病巣ははっきりしませんが、交感神経節、中間質外側核、迷走神経背側核、孤束核、視床下部などに多巣性の病変が認められ、中枢および末梢両方の交感神経の変性、圧受容器反射の破綻、末梢血中のノルアドレナリン濃度の低下、心臓の交感神経支配の喪失など、発生機序は複合的と考えられます1)

文献2では特にbaroreceptor reflex(圧受容器反射)の障害を大きな問題として取り上げています。baroreceptorとは血圧が下がっても脳血流を正常に保つための機構で、頸動脈、大動脈膨大部に受容体があり、血圧が下がるとbaroreceptorから、迷走神経と舌咽神経を介して信号が延髄に伝えられ、下降性の交感神経信号の増大となって末梢の血管を収縮させて血圧を維持するものです。それと同時に心臓交感神経を通じて心拍数の増大も起こします。

baroreceptorが障害を受けることで、血圧が下がっても脳血流量の維持は起こらず、心拍数の増大も起こりません。これにより神経原性起立性低血圧が起こるとされています。また、パーキンソン病患者は背臥位に臥床すると高血圧になることがありますが、これもbaroreceptorの調整が効かないため、本来下がるべき血圧がそうならないために起こるとされています2)

なお、血圧が低いのは、抗パーキンソン病薬の副作用の要素もあると付け加えておきます。

その他の自律神経障害

食事性低血圧

食事性低血圧は食事中、食事後に血圧が下がりだし、めまい、失神、気持ち悪さ、眠気などを訴えるものです。食事による糖負荷増大→消化管の血流増加→低血圧の順に作用します。健常であれば中枢による血圧調整が行われるところですが、それが障害されているために低血圧になります。食事開始後30~60分で最も低下すると言われています。食事内容は炭水化物が最も影響するようです1)

性機能障害

あまり表面に出にくい問題ですが、性欲の低下、勃起不全、オーガズムの低下、精液減少、射精不全があります。性欲が亢進することもあり、その場合は抗パーキンソン薬の影響が疑われていましたが結論には至っていません。パーキンソン病患者の3割~6割に見られるとの報告もあります。パーキンソン病の場合、これらの性機能障害は大部分が運動障害の後に出現します。一方で多系統萎縮症の場合は運動障害発現の前に見られることが多いです2)

発汗障害

パーキンソン病の発汗障害は発汗過多と発汗低下の両方があります。病気における比較的早期から見られ、L-ドーパの服用で改善することもあります1)。全身性に玉のような汗をかく場合もあって、Wearing-offの出ている患者様に多いとされています。しかしその場合もオン時に出現する人もいればオフ時に出現する人もいて、夜間に起こる人もいれば日中に起こる人もいるなど、傾向が一貫しておらず解明も進んでいないというのが現状です2)

流涎

流涎は自律神経症状でなく、無動あるいは自動運動障害が原因とされています。健常な人は無意識に唾液を飲み込んでいますが、パーキンソン病の進行によりそれができなくなり、結果的に口の中からこぼれます。唾液量は増えていないか、むしろ減っているとの報告もあります2)

まとめ

パーキンソン病の自律神経障害についてまとめました。リハビリテーション関連書籍だと、運動障害に比べて取り上げられているページも少なく、その解剖生理学的な機序についても解明されていない部分も多いです。しかし、全身状態が安定しないことで、間接的に運動機能に影響を及ぼすこともありますし、何よりも患者様や利用者様が苦しんでいる症状のひとつでもあります。また、これら自律神経症状によりパーキンソン病を早期発見できれば、早期治療が可能になり予後を良くする可能性もあります。自律神経領域はリハビリ専門職や治療家においても理解することが望ましい分野だと思います。

主な引用・参考文献

1)山永裕明、野尻晋一「図説 パーキンソン病の理解とリハビリテーション」三輪書店.2010
2)水野美邦「パーキンソン病の診かた、治療の進めかた」中外医学社.2012
3)坂井建雄,河原克雅(総編集)「カラー図解 人体の正常構造と機能 改訂第2版」日本医事新報社.2012