理学療法とは重力との関係性の構築である(リハビリの基礎講座⑤)

まほせら式 リハビリの基礎講座

今回は特に理学療法士に関わる内容についてお話しします 😊

生物は自分の身体だけで生きていくことはできません。何らかの生きるための養分やエネルギーを取り込む必要があります。植物は水と二酸化炭素を取り込み、光合成で炭水化物を作り出します 🌻

多くの動物は食べ物を捕食するために、自分で動く必要があります。
浮力の強い海中では、魚は三次元を自由に動くことができましたが、陸に上がった時に大きな制約を受けることになります。

それが重力の存在です 🍎

陸上の生物は重力の影響を強く受けます。そして長い時間をかけて、それぞれ独自の適応をしていきます。

最初、陸地に上がった両生類や、そこから進化した爬虫類は地面を這うように動きます。外敵から身を守るためか、食物を速やかに見つけるためか、この頃から頸部の肋骨が退化していきます。さらに進化して4本足で歩く哺乳類が登場すると、腰椎部分の肋骨も退化して、さらに複雑な動きが可能になります。

※ 左からコイ、トカゲ、ライオンの骨格。コイでは脊柱全体に肋骨が付着しているのが分かる。トカゲでは頚椎の肋骨は退化しているが腰椎は残存している。ライオンでは腰椎の肋骨も完全になくなっている。写真出典:「骨から見る生物の進化」河出書房新社(パトリック・グリ撮影)

人間では肋骨が付着する脊椎は胸椎のみです。肋骨からの解放というのも動きの自由度を得る上でとても重要でした。頚椎と腰椎を比べると頚椎の方が大きな可動域を有していますが、肋骨の制限から早く解放された進化の順を考えれば、ごく自然なことなのです。

さらに人間が直立位を可能にすると、脊椎の弯曲は頚椎前弯と胸腰椎後弯の2つから、頚椎前弯、胸椎後弯、腰椎前弯の3つに増えます。弯曲が2から3に増えることで、衝撃に対する耐容は2倍になります。ちなみに人間でも2歳までは腰椎は後弯していて、成人のような腰椎前弯が完成するのは10歳頃とされています(「カパンジー 関節の生理学Ⅲ 体幹・脊柱」より)。

このように身体は、環境に適応して変化していった結果、現在の構造に至っています。そして何が身体の変化に影響を及ぼすかと言えば、やはり重力の問題は欠かせないと思います。

人間がなぜこれまで発展したかと言えば、手を巧緻性高く使えることが、大きな要因としてあります。手を有効に使うためには、上半身を自由にする必要があります。それが二本足で立つことにつながります。人間の体幹・脊柱は他の動物にはない複雑な動きと高度なバランス、高い衝撃吸収を求められたのです。

それらは重力との関係性で成り立っています。リハビリ、特に理学療法については、重力に適応する運動能力をどのように身に付けるか、ということが非常に重要になります。
むしろ、現実的にはほとんどそれに尽きるのではないか とすら思います。

歩くことというのは、いかに二本足の狭い支持基底面で転倒せずに移動するかという動作です。転倒は支持基底面から重心(重力の中心)が離れることで起こります。寝返り、起き上がり、立ち上がりなども、重心を調整して、いかに少ないエネルギーで重力に抗するかという点がポイントになります。

身体は長い年月をかけて重力下の環境に適応するための変化をしてきました。逆を言えば、人間の身体は重力という刺激に特異的に反応する構造と言えます。

座ってる人の前に立ち、両手に軽く触れて、荷重が足底にかかるように前方に誘導すると、人は自然と立ち上がります。起き上がりの時、側臥位の状態から頸部を腕で抱えるように介助すると、自然と肘をついて上向きの力が働きます。

いずれも支持面に荷重がかかった時に筋収縮が起こります。

もちろん、全てではありませんが、例にあげたような反射的な運動・筋収縮は多くに重力が関与しています。それを考えると基本動作を向上させたい時、重力との関係性という視点を持つと良いと思います。

立ち上がりという動作について言えば、支持面にしっかり重心が移動しているのか? 荷重がかかった時に下肢はしっかり反応があるのか? ないとしたら、その下肢には荷重を受け取る環境が整っているのか? そのように考えを進めていきます。
荷重を受け取る環境とは、例えば、深部感覚を感じるための関節可動域、筋緊張、アライメント、さらに圧覚、振動覚といった感覚的な要素です。

⭐荷重時の反応についてはこちらも参照してください。
文献ではなくまず患者様をみる ~セラピストの基礎能力を上げる臨床の考え方(リハビリの基礎講座③)

例えば、pusher症候もパーキンソンの姿勢障害も、肩こり、腰痛などの慢性疾患も、前者は神経疾患、後者は生活習慣と原因はそれぞれですが、いずれも重力との関係性の中で問題が起こっています。
それを考えると、治療をしようとする時、そもそも身体が正常に重力に対応するのにはどのような能力や機能が必要なのか? 私はそのような発想に結びつきました。そうなると姿勢やバランスに関する基礎的な知識の重要性もまた感じていただけると思います。

今回は少し抽象的な話でしたが、少なくても経験を積んだ理学療法士は、身体と重力の関係を物理を交えて自然に考えています。そのような臨床の捉え方をする職種であると言えます。