病院に勤めないとセラピストは成長できないのか?

キャリア構築、生き方

私が理学療法士免許を取得したおよそ20年前だと、新卒者のほとんどが病院に就職していたように思います。最近は最初の就職先として施設や訪問看護ステーションを選択する人も増えているようです。私が就職した時代の感覚からすると「最初に施設や在宅で大丈夫?」と思うのですが、今回はセラピストの成長について、病院、在宅、施設といった業態の観点から考えを深めていきたいと思います。

今回のテーマ
・環境(就職先の業態)がセラピストの成長にどのように影響するのか
・何の因子が関わるのか
・どのようなメリット、デメリットがあるのか
・デメリットを補うような学習方法はあるのか

訪問看護ステーションを最初に選択したセラピストに実際に聞いてみた

私の勤務先には、訪問看護ステーションが最初の就職先という理学療法士がいて、その経験や成長のプロセスについて聞いてみました。

「在宅(訪問)が最初だからと言って勉強できないということはないと思いますよ。今は昔に比べて受け入れ体制も整っていると思いますし。でも、在宅の利用者さんがなぜ今の状況になったのか、そこを見ていないのは不安でした。ポッカリ知識が空いているような感覚がありました」

その理学療法士は最初に訪問看護ステーションに就職した後、回復期病棟を持つ病院に再就職、その後再び訪問に戻るという選択をしました。

「一度、見ておくというのは大事ですね。私にとって回復期を経験して一番大きかったのは在宅の人々がどのような過程を経て来ているのか、そのイメージがしっかりできたことですね」

反面、他のデメリットはあまり感じなかったそうです。例えば、病院に比べると在宅は診られる担当数が少ないと私は思っていましたが、必ずしもそうではないようです。回復期病棟は一人にかける訓練時間が長く設定されています。担当も決まっていて基本的に同じ患者様を訓練します。訪問では毎日同じ利用者様宅に伺うわけではないので、その時々の担当数では在宅の方が多くなります。おそらく病院の方が担当の移り変わりが早いので純粋な比較は難しいですが、環境によっては在宅の方が担当数が多いという現象が生まれています。

医療制度の変更にともないセラピストの働き方のスタイルも変わってきています。増えたスタッフの効率化のために疾患区分や病棟ごとにセラピストを班分けする病院もあります。
回復期病棟が広がる前の総合病院では1日20人近く訓練する日も珍しくありませんでした。おそらく「簡単」「複雑」という点数区分で診療報酬を得ていた時代(2001年より以前)だともっと多かったのではないかと思います。総合病院に勤めていると診療科も区別なく担当していましたし、外来も受け入れていたので回復期も慢性期も診ていました。それが一概に良いとは思えませんが、現在はかつて病院で特徴的であった疾患の多様性や症例数という経験要素が変わってきているのでないかと思います。

それを考えると病院以外の選択肢も並列に考えられる時代になってきたのではないかと思います。

ただし、今回話を聞いた理学療法士の最初の就職先は、セラピストが事業主の訪問看護ステーションで、リハビリスタッフも多く、地域でトップクラスの研修体制を敷いていた事業所です。私が以前に勤めていた事業所は看護師がメインの訪問看護ステーションで、とてもセラピストの教育体制が充実しているとは言えませんでした。事業所間の格差も大きいと思いますので、そこは慎重な判断が必要に思います。

今回話を聞いた限りですが、在宅でキャリアをスタートさせることは、考えていたほどデメリットを感じませんでした。この理学療法士がたまたま環境的に恵まれていたという要素はあるかもしれません。それでも、病院でなくてもセラピストの育成ができるという事実は時代の移り変わりを感じさせました。
しかし、それほど恵まれた教育体制にいても、その後回復期病棟に移ったという事実は両者に何か埋めようのない差があるようにも受けとれます。
回復期のプロセスを見ていないというデメリットはそれほど大きいのでしょうか。次はこのテーマについて考えていきたいと思います。

回復期を学ぶことはセラピストにとって必須なのか?

回復期と慢性期の大きな違いは、前者が目覚ましい運動機能の変化を示すのに対して、後者はその変化が比較的少ないということです。セラピストにとって運動機能を回復させること、改善させることは、学校に入る前から目指してきたことであり、アイデンティティにもつながる部分です。

その中核を成長させるのがまず経験です。

まず回復期は患者様自身の強い治癒力で回復してくるので治療に対する反応がとてもわかりやすいです。本人の治癒力が高いために必ずしもセラピストの技量が反映されるわけではないですが、それでも回復をしっかり導けているのかフィードバックが得られるのは貴重です。

それに加えて、その回復経過を見ているだけでも大きな経験になります。回復というのは基本的に患者様(あるいは利用者様)本人の治癒力に依存するものです。それを見定める目を養うこともできます。

・どのような状態なら回復していくのか?
・回復する身体にはどのような徴候や反応があるのか?
・反対に回復していかない身体とはどのような状態なのか?

それらの疑問は文献を読んでも学べますが十分ではありません。実際に経験を重ねて、感覚として身体に落とし込むことで何よりも身につきます。
回復する過程を何回か見ていると、予後予測の基準もできてきます。この症状であればこのくらい改善するのではないか。その予測ができると仕事が行いやすくなります。もちろん全てがその通りになるわけではありませんが、基準ができるとそれをもとにアップデートをしていけば良いのでその後の学習も行いやすくなります。

回復期に比べると慢性期は急激な回復はあまり見込めず、その変化の幅が小さいために気付くのにある程度の技量が必要になります。キャリアの浅いセラピストが経験を積む上では回復期ほど容易ではないのです。

それと冒頭の理学療法士の言葉にあったように、慢性期で担当する際に回復期のイメージを持てないことは大きな不安を生むようです。これについては他のセラピストからも聞いたことがあります。それを考えるとリハビリというのは、ある病期を知っているだけでは不十分で急性期から在宅まで流れ全体をつかんでいるのが望ましいのだと思います。

一人職場で学び始めても成長できるのか? ハンデを補うための学習法は?

回復期と慢性期の差という観点でこれまで論じてきました。以前に比べると病院とそれ以外の就職先の差が小さくなっているように思います。しかし、それは環境が整った状況での話で、施設にしても訪問看護ステーションにしても、セラピストの在籍が少ない職場もあります。

例えば、施設や在宅など慢性期で、仮に一人しかリハビリスタッフがいなかったとして、そこでどのように成長できるのかという疑問はあります。技術の向上という観点を除いても、リハビリスタッフが他にいないというのは寂しいものです。自分のちょっとした疑問を尋ねたり、その日の臨床の様子を少し話すだけでも気持ちが晴れます。特にキャリアが浅いうちは同僚がいないのは不安やストレスが強いと思います。

事情があってそこに在籍しているのでなければ職場を変えるのも手だと思います。自分の目的に沿ってなければ職場を変えるのは悪いことではありません。いけないのは目的と関係なく一時的な感情で職場を変えることです。自分のやりたいことや将来を問い直して、今どこにいるのが一番良いのか考えてみると良いでしょう(目的やキャリア形成についてはこちらの記事「セラピストのキャリア形成について私が思うこと」も参考にしてみてください)。

しかし、奨学金の事情などでその職場から離れられないケースもあるでしょう。そのような場合でも、その人次第でいくらでも成長はできると思います。一人職場だったとしても、困った先輩がいることに比べれば、むしろ一人の方が良いこともあります。

成長に関して環境は良いに越したことはないですが決定的な因子ではありません。焦らずに地味でもきちんとした学習を積み重ねていけば、たいていのセラピストには負けない実力がつきます。

目の前の利用者様を見て、なぜこのような身体の状態なのか、今まで習ってきた知識と照らし合わせて考えてみることです。これは回復期でも同じことです。慢性期の方が分かりにくいかもしれませんが、それだけに分かった時の気付きは一生の財産になります。
全く手がかりがつかめないとしたら、基礎的な知識が足りないか、もしくは知識と臨床を結びつける考え方が十分でないかもしれません。

足りないことに気付いたら書籍を読むか、時には講習会に参加してみましょう。
そこで得た知識や気づきを臨床で試してみて、また疑問を見つけて、それを調べて・・・・・・と、その繰り返しが学習の基本的な過程です。

講習会では色々と話をしてみましょう。実技でパートナーを組んだ人などは声をかけやすいと思います。そのような結びつきの中から思わぬ臨床のヒントがもらえたり、お勧めの講習会を教えてもらえたりします。私も今メインに勉強している治療法は、セミナーで知り合った人のさらに知り合いのSNSから知ったものです。どこに縁があるかは分かりません。もしかしたら、一生付き合うようなセラピスト仲間ができるかもしれません。

まとめ

病院、在宅、施設など就職先の違いによる成長への影響から、ハンデを補う学習法までをまとめました。環境がセラピストの成長に与える影響は小さくはないと思いますが、決定的な因子ではないと思います。
キャリアのスタートとして病院は王道だと思いますが、その病院にしても診療報酬の改定やそれに伴う業務形態の変化、合理化などにより、以前に比べると多様な経験を積みにくくなっています。自分で貪欲に学ばないと成長しにくい時代になっています。

環境の是非というのは結局のところ、その人の目的次第です。適した環境を知るには目的をよく考えると良いでしょう。環境と目標が一致すると、やりがいや楽しさが生まれやすいと思います。

そのような前を向いたセラピストがたくさん増えるといいなと思います 😊