PT・OTの転職事情

キャリア構築、生き方

PT・OTを取り巻く転職環境

PT・OTの国家資格制度(理学療法士及び作業療法士法)が制定されたのが1965年(昭和40年)で、すでに半世紀が経過しています。その間にPT、OTともに増加の一途をたどっています。私が専門学校を受験した時、県内の理学療法士養成校は、専門学校が4校、短期大学が1校しかありませんでした。今は倍以上になっています。

介護分野の拡充により、施設や在宅での需要が増えましたが、それ以上にセラピスト数は増える勢いで、飽和状態に近づいているでしょう。

先輩からは、昔は1日バイトしただけで10万円を超える報酬をもらえたと聞いたことがあります。それには遠く及ばないにせよ、私が理学療法士になった頃は今よりも金銭的な条件はずっと良かったです。

医療点数も簡単・複雑という区分から、現在は疾患別という区分に変わり、算定できる日数も定められました。私の新人時代は日数制限もありませんでした。病院にとってリハビリは、あれば儲かる打ち出の小槌ではなくなりました。

絶対数が増えて、儲けも少なくなったリハビリ専門職は昔と比べると、かなり需要と供給のバランスが変化してきています。少なくても引く手あまたという状況ではなくなっています。

私も5回転職しました

私は20年ほど理学療法士をしていますが、その中で5回職場を変えています。1番長く勤めたのが7年、1番短かったのが半年でした。理由は様々で、家庭の事情で引っ越しが必要な時もありましたし、 最初に提示された条件が守られないことで辞めたこともあります。

最初に職場を変えたのが30代直前、最後に職場を変えたのが40代直前でした。それぞれの時期によって気付いたことが違います。そして、転職のために準備しておくことも多々気付きました。

今回はそのような時代で、PT・OTがいかに転職するかについて、経験を踏まえて書きたいと思います。

キャリア育成のための考え方は以前の記事でお話ししましたので、そちらを参照してもらうとして、今回は具体的にどのように転職するべきか、注意すべきことなど、実行に移す上での方法論をまとめたいと思います。

キャリア育成のための考え方についてはこちら
参考記事:セラピストのキャリア形成について私が思うこと

転職を成功させるために準備すること

人材にもランクがある

店で売られている商品に値段があるのと一緒で、人材にもランクがあります。これはPT・OTも一緒です。

① 向こうから来て欲しいとスカウトされる人材
② 応募して、ぜひ来てほしいと採用される人材
③ 応募して、それほど欲しくもないが、人手不足のために採用される人材
④ 人手不足でも欲しくない人材

転職によって、金銭的な条件を良くしたいと考える人がいるかもしれません。しかし、転職によって収入が上がるのは多くは①の人だけです。②や③も上がる可能性はありますが、すぐに頭打ちになります。

何を持って①とするかは、その人が身を立てたい分野でも変わってくると思います。そのような将来について、常日頃から考えておくことが大切です。できれば転職を決める前から①でありたいですが、そうでなければ①に近づくような転職が望ましいと言えます。それがキャリア形成と言えます。

転職は計画的に

これはPT・OTだけではありませんが、職場が気に入らないからという理由だけで転職するのは得策ではありません。よほど職場環境が悪いなら別ですが、どのような職場でも何か問題はあるものです。全ての要求を満たす都合の良い職場は、現実にはないと言って良いでしょう。

なので、「一生こんな感じで、やり甲斐がなくても給料が上がらなくてもいいや」と思っているのでなければ、転職により何がしたいのか、きちんと考えるべきです。

転職を無闇に繰り返す人は大切なことを忘れています。それは時間は無限にないということです。どのような環境でも努力することは大切ですが、一方でその努力が報われるよう、目的に近づくようにステップを考える必要があります。

多くの仕事は1日8時間は消費します。その多くの時間を目的と関係ないことに費やすのは、もったいないことです。

理想の職場とは

楽ができて、給料が高くて、やり甲斐があって、人間関係も良くて……という都合の良い理想の職場は現実にはありません。あったとしても、そのような職場は利権を貪る者が出てきて、水の流れがない溜池のように、いずれ濁ってきます。

根底に楽をしたいと考えている限りは、満足する職場にたどり着くことはないと思います。そもそも仕事は誰かの問題を代わりに解決する作業であって、その労力の代わりに対価が与えられるものです。楽してできる作業というのは、対価が低くなるか仕事が成立しないかどちらかです。

しかし「理想の職場」については思い当たる節があります。昔、何かのメディアで結婚相手について書かれた文章があって、それが職場探しにも通じるものだと感心したのを覚えています。

それは「苦労しなくてすむ相手と結婚するのではなく、この人となら苦労してもいいと思う相手と結婚しなさい」という言葉でした。

苦労しなくてすむ職場ではなく、ここなら苦労してもいいと思える職場……それは間違いなく理想であり、その人の努力や計画次第で見つかるのではないかと思うのです。

転職の実際

人材紹介会社

私の転職は5回のうち、3回は人材紹介会社を利用しました。最初に登録したきっかけは職場の元同僚からの口コミでした。

利用したことがない人は、人材紹介会社について「変なところを紹介されるんじゃないか」とか「しつこく就職を勧められるんじゃないか」とか不安に思うかもしれません。

前者についてはこちらが提示した条件や相性もあるので何とも言えません。例えば、相場より破格に高い給料を条件にすれば、それなりに理由がある職場が出てくるのは仕方ないと思います。しかし、そういうこともなく、わざと悪い情報を隠して斡旋するということはおそらくないと思います。人材紹介会社というのは利用者からは代金を取らず、就職が決まった後に会社から紹介料を受け取る仕組みです。しかし就職後、一定の期間に離職しないことが条件で、就職直後に辞めてしまうと紹介料を受け取れません。すぐに辞めるような就職では紹介会社も困るのです。

ただ、コンサルタントも紹介先の中で働いているわけではないので、内情を全て把握しているわけではありません。そのため、情報と実際にズレが出てくる可能性はあります。最後は他人任せにせず、自分の目で確かめて責任を持って判断する必要があります。

後者については相手は紹介する職業なので頻繁に提案はしてきますが、こちらの条件がしっかりしていれば無理に勧めたりはしてきません。特にこちらが期限(何月までに決めたい)とか条件を出していると相手もそれなりにプッシュしてきます。勧められるのが嫌な場合は「○月まで紹介はメールだけにしてください」とかしっかり意思表示すれば大丈夫です。つまり、紹介会社とのやりとりもコミュニケーションが大切ということです。

下の表が私が人材紹介会社を3回利用した時の概要です。

1回目は高めの年収を条件にしました。ほぼ希望通りの条件でしたが、2年後に家庭の事情で引っ越しが必要となり退職となりました。2回目は通信制の大学に通っていた時で、スクーリングのために休みが取りやすい職場という条件を出していました。そのためパートで就職することになったのですが、大学を卒業した後は正社員になりました。紹介会社に登録している先というと、私は民間企業が多いイメージを持っていたのですが、この就職先はつい最近まで公益法人でどちらかと言うと役所系でした。そこの職場には強い不満はなかったのですが、自分がキャリアを積むにつれて副業(整体業)がしたくなり、それを可能にしてくれる環境を探しました。

3回目は副業可能が希望だったので、条件が一気に厳しくなり、就職が決まるまで6つの紹介先と面接しました。この時、多くの事業所を回ったことで転職に関する気付きも多くありました。それは後述したいと思います。

3回ほど人材紹介会社を利用しましたが、私の場合は条件がそれなりにあるにも関わらず、最終的にはほぼ希望通りの就職先を見つけることができました。

人材紹介会社を利用する良い点・悪い点
〈良い点〉
・そこでしか見つからない求人がある
・数多くの事業所から探す手間が省ける
・金銭面など言いにくいことも代わりに交渉してくれる
・提案以外でもホームページから求人を見ることができる(世間的な相場や状況を知ることができる)
・紹介会社を仲介して契約書を交わすので、後で条件に関するトラブルが起こりにくい

〈悪い点〉
・提案が煩わしい時がある
・探したいペースと合わない時がある
・自分の考えと違うことが先方に伝わっていることがある
・登録している事業所しか紹介してもらえない

良い点から説明すると、ハローワークに登録していない事業所もあるので、紹介会社からしかルートがない求人もあります。今はほとんどの事業所がホームページを構えていて、そこには求人案内がありますが、星の数ほどあるホームページを検索する労力は大きく、更新が滞っていて現在は求人していないということもよくあります。

金銭面の交渉を代わりにしてくれるのは大きなメリットでしょう。それと登録してホームページから見ることができる求人一覧も隠れたメリットです。特にはじめて転職する人は、世間的な給与の相場やどのような事業所があるのか知識を得ることができるでしょう。

悪い点としては、面接後には就職するか断るか決断しなくてはいけません。保留はできません。「もっと条件が良いところがあるかも」とは誰もが考えることだと思います。こちらは気長に探しているのに頻繁に提案が続くこともあります。面接の時、自分の考えていることと全く逆のことが先方に伝わっていることもありました。コンサルタントは万能ではないので、全て丸投げでは色々と悪い点も出てきます。

紹介会社を利用する上で大切なことは、自分の条件をしっかり決めておくことです。それをしていないと、考えていた期日が近づくと気持ちが揺らいでしまいます。決まらなかったら条件を下げるのか、期間を延ばしても妥協しないのか、自分で決めなくてはいけません。その時が来てから考えるのでなく、あらかじめ考えておいた方があわてなくてすみます。結局のところ、紹介会社で問題が起こるのはその人自身にしっかりした転職イメージがなかったり、条件が厳しかったり、何らかの問題があるように思います。嫌だったら断れば良いわけで、最終的な決定権は全てその人にあるからです。

長く書きましたが、人材紹介会社はメリットも多いですが、当然ながら契約している求人しか案内してくれません。「紹介会社を絶対に使わない」という事業所も存在します。ツールのひとつとして利用しつつも、いくつかの紹介会社に登録したり、ハローワークも探してみたり、自分でホームページを当たったり、労を惜しまないことが納得いく転職を導く基本だと思います。

ハローワーク

私の転職5回のうち、3回は人材紹介会社経由ですが、残りの2回はハローワークの求人でした。

もし、仕事をしない空白の期間があるなら、求人の利用をするしないは別にして、ハローワークの手続きはしておくべきです。「求職の手続き」「離職票の提出」など、詳しくはハローワークのホームページを参照してください。自己都合退職の場合、すぐに失業手当がもらえるわけではありませんが(約3ヶ月後)、もし失業手当支給前に就職が決まっても、条件によっては再就職手当もありますので、しっかり確認しておきましょう。

さて、ハローワークでは端末に条件を打ち込むと、それに合致した求人を見ることができます。これはホームページ上でも閲覧可能です。ハローワークに登録している人のみ公開している求人もありますので、その点でも手続きはしておいた方が便利です。

ハローワークの求人票にはそれほど多くの情報が書かれているわけではありません。事業所名、所在地、給与、現状のスタッフ数、勤務時間、業務内容くらいです。

業務内容と言っても「入院、外来患者様の機能訓練」とか「利用者様宅に訪問してリハビリをしていただきます」とか大雑把なものです。

求人票をもとにホームページなどを見ることはできますが、それ以上の情報を得ることは難しいです。人材紹介会社の情報も十分とは言えませんが、ハローワークはさらに不足します。

紹介会社経由でもそうですが、転職については、外部から見えない部分はどうしてもあります。本人の直感や洞察力もかなり重要に思います。

ハローワーク経由で就職した結果です。


最初に就職した病院を辞めた直後、しばらくはのんびり生活したいと思い、パートで休みが多く、ある程度の収入という条件で探していました。ハローワークで、時給が良い身障者施設での求人が見つかり、そこで週4日働いていました。しかし、経営者のリハビリに対する理解は低く、重症者が多かったのですが、本人の意思や状況に関わらず運動させることへの希望が強く、ここでは働けないと思い退職しました。その次の就職先が人材紹介会社での1回目の利用になります。

もうひとつは個人のクリニックでパートで勤めていました。前回のハローワーク利用時と同様に週4日勤務していたのですが、ハローワークでも書かれていた社会保険に半年の時点で加入できず、当初の時給も常勤との兼ね合いで下げたいと言われて辞めることにしました。ここは雰囲気や職場環境は全然問題がなかったのですが、事務管理において非常にルーズさが目立ちました。

人材紹介会社とハローワークを比べて、数字だけ見れば、前者で見つけた職場の方が長続きしています。これは単純な求人の質の差ではなく、その時に提示していた条件が違うということにも影響されていると思います。

私がはじめて転職した10年ほど前と比べると、現在のハローワークの求人は金銭的に言えば突出した条件は少なく、あったとしても週1日や時間帯が限られるなど、特殊な案件が主のように感じます。

実際に両者を利用した経験からすると、給与面で条件を良くしたいなら、人材紹介会社を活用するか、併用することを考慮した方が良いと思います。

ハローワークを利用する良い点・悪い点
〈良い点〉
・そこでしか見つからない求人がある
・失業手当、再就職手当など給付が受けられる
・急かされることがなく、自分のペースで就職活動ができる
・ホームページから求人を見ることができる(世間的な相場や状況を知ることができる)

〈悪い点〉
・事業所の情報に乏しい
・金銭面で突出した条件の求人は少ない
・登録している事業所しか紹介してもらえない

過去の転職で気付いたこと

相場は年収350万~500万円

正社員で週5日働くとして、だいたい相場は350万円~500万円だと思います。人材紹介会社でもハローワークでも求人の条件は概ねこの範囲に収まっています。しかし実際には500万円に到達する求人はほとんどありません。これは前述の「人材にもランクがある」のところで紹介した②③の方々の限界だと思います。

最後まで勤め続けるなら国公立系

今や昇給はほとんど望めないと言って良いでしょう。長く働いていても、高度成長期のようにどんどん収入が上がるなんてことはありません。ただ例外があって、国公立系は昔の民間ほどではないにせよ着実に給与が上がってきます。もし、勤め人で一生を終える気で、業務内容にこだわらず、金銭だけで考えるなら国公立系が良いと思います。

能力が高い人を欲しがるわけではない

最後の転職では6回ほど事業所を回り面接を受けました。その時に気付いたのは、先方が求めるのは必ずしも技能ではないということです。例えば、その事業所にいるセラピストのリーダーが5年目だとすると、私のような経験年数が長く、セミナーに頻回に行っていて、副業をしたいなんて人間が部下になるとやりにくいと思います。全てがそうではないですが、扱いやすい人間を求めている事業所は多いと思います。そのような点で年齢が上がることは転職に純粋に不利だと思います。

個人経営の事業所は経営者を見極めたい

大きな組織でトップと顔を合わせることがない事業所もあれば、経営者がそのまま現場の管理者をしているような事業所もあります。後者のような個人経営的な事業所は現場の売り上げがそのまま管理者の利益に繋がるので、当然経営に関してシビアです。また、自身で起業しているくらいなので当然個性が強い人が多いです。そのような事業所では経営者との相性が大切になります。私自身もそこで折り合いがつかずに辞めたことがあります。経営者の中にはリハビリに対して理解が悪い人もいます。そこの判断で職場選びの成否が分かれると思います。

これからの転職術

PT・OTの転職事情について、自分の経験やそこから得た気付きを交えながらまとめました。アドバイスを並べましたが、紹介した転職歴を見ればわかるように、私自身は決して褒められるようなキャリアを歩んでいません。

「職場が気に入らないからという理由だけで転職するのは得策ではありません」と言っておきながら、自分は気に入らないという理由だけで何回か職場を辞めています。

後から振り返ると、考えが甘かったと思うことが多々あります。無駄な経験というものはありませんが、それでも不要な転職はキャリアにおいてロスになります。自分が失敗したゆえに伝えられることもあると思います。

転職に求めるものは人それぞれであり、満足するかしないかも、その人の価値観によります。なのでそこに正解はありません。

人材紹介会社を用いても、ハローワークを用いても、ホームページで自分で調べても、自分がしっかり転職に対するビジョンを持つことが大切です。つまり、それは自分の将来に対するビジョンを持つことでもあります。

「理想の職場」などなかなかないものですが、それを見つける手段はあります。それは自分でそのような環境を作るということです。

起業をするというのも手段ですが、それ以外でも方法はあります。

例えば、私の知人は産前産後のリハビリをしたくて、ある産婦人科に自分から雇ってくれないか働きかけました。その病院は求人しておらず、過去にセラピストを雇ったこともありませんでしたが、その熱意に押されたのか採用されて、現在もそこで働いています。

求人がなくても、レールが敷かれていなくても、自分次第で仕事を作ることができます。雇用主にとってのメリットを自分から売り込むことで、新しい道を作ることも可能なのです。

これはビジョンがあって、能力もあって、情熱もあって、転職の最終段階とも言える形だと思います。

このような方法は誰もが行えるものではなく、そのような生き方をすることが必ずしも正解でもありません。繰り返しになりますが、転職の正解はその人の価値観によります。

この記事が、誰かのより良いキャリア形成の役に立つことを祈っています。