なぜ、そこまで傾かなくてはいけないのか? ~パーキンソン病の姿勢障害について(パーキンソン病のメカニズムとリハビリ⑨)

パーキンソン病

はじめに

このパーキンソン病のシリーズ記事を書き始めたきっかけのひとつが、この姿勢障害の不思議さでした。前方、あるいは側方に大きく傾いた姿勢は生活する上であまりに非合理です。本人に傾いているのがわかるか尋ねると「わかる」と答えます。自らの姿勢の異常がわかっていても直すことができないのです。

私は人間の姿勢や反応というのは、何かしら原因があると考えていました。少し話が逸れますが、Spine Dynamics療法の考案者であり、オリンピックの日本代表のトレーナーも務めた脇元幸一先生(故人)は「拘縮は身体防御反応である」と話していました。自身の関節機能あるいは筋機能で外力やエネルギーを制御できない場合、中枢神経系は関節可動域を減少させることによって発生する力を少なくさせる、それが関節拘縮という病態を生み出すという考え方です。

また、臥床生活をしている人で、病気の進行により筋緊張が強くなり、身体全体を強く屈曲させている方がいます。自分の筋緊張で自らの身体を強く圧迫し、苦しいのではないかと思うほどの力です。そのような人の中にはポジショニングで支持面を広めにとると、いくらか緊張が緩む人がいます。姿勢的に無理があると緊張は高くなりがちで、これもそれだけの理由があるのだと感じました。

一見、非合理でも、そこには身体が自身を守るためなど理由があります。外部環境に対して何らかのその人の身体の答えなのです。しかし、このパーキンソン病の姿勢については、何ら本人の身体に守られる要素がなく、その理由を見出せませんでした。

いくつかの書籍を紐解きましたが、そのメカニズムについては断言できるほど解明は進んでいません。いくつかの要素が姿勢障害に影響していると考えられ、もしくは、それらが複合的に絡んで表れる病態と言えるかもしれません。最終的な見解はそれぞれで文献に当たってもらい結論を出していただくとして、ここではいくつかの文献に基づき、私の経験や考えを書きたいと思います。

パーキンソン病の姿勢障害

このブログでも何度か触れてきましたが、パーキンソン病の4大徴候として「振戦」「筋固縮」「無動」「姿勢反射障害」があります。「姿勢反射障害」について、実際に臨床的な視点で考えると、例えば座位や静的立位でも身体が傾いてしまうという、いわば姿勢保持の障害があります。そして歩行時などに転倒の起因になる動的なバランス障害もあります。前者は腰折れ、ピサ症候群、首下がりなどが含まれて、後者は突進減少、すくみ足などが含まれます(※)。

両者はその原因について共通するところも多いですが、重なっていないところもあります。それをひとつの記事にしてしまうと、まとめることが難しくなるので、今回は主に座位、静的立位、あるいは座位で食事をするなど「姿勢保持」に関する障害を取り上げて、歩行などよりダイナミックな姿勢調整については後の記事で書いていきます。

※ この区分については公式な分類でなく、私が今回ブログを書くに当たって分けたものです。書籍などでも姿勢反射障害をどのように定義するかはそれぞれで、表記も「姿勢保持障害」「姿勢・歩行障害」など様々です。このブログでは上のような区分で話を進めていきます。

パーキンソンの姿勢保持障害において、よく取り上げられるのが「腰折れ」「ピサ症候群」「首下がり」です。

腰折れ(Camptocormia)

胸椎下部あるいは腰椎部で体幹が前屈する症状で、座位や起立位をとるとだんだん姿勢異常が強くなり、背臥位になると解消されます。多系統萎縮症でも見られますが稀であり、大部分はパーキンソン病の方で見られます1)。曲がる部位によって「腰部型」(股関節で前屈、骨盤前傾を代償するために膝が曲がっていることが多い)、「上腹部型」(胸腰椎移行部(T9-L2レベル)で前屈、臍の高さあたりで横方向に皺を伴う)に分類する場合もあります2)

ピサ症候群(Pisa syndrome)

体幹が右、あるいは左に傾く減少です。これも座位、立位、歩行などで増強して、背臥位では解消されます。文献2によれば「多系統萎縮症でもパーキンソン病でも見られるが、パーキンソン病の方が程度が強い印象をもっている」としています。また「曲がる方向は初発の側(症状が最初に出た側)に曲がることが多いが、反対側に曲がる人もあり、症状の左右差のみでは説明できない部分がある」としています。

首下がり(Ante-collis)

首が前に倒れ、ひどい場合には顎が胸に付いてしまう現象です。これも背臥位では消えて、座位・歩行で増強します。首下がりの人は肩甲挙筋が厚く肥大していることが多いので、これが首下がりを起こすとの考えもあります。また、座位にて首を受動的に後屈させると、胸鎖乳突筋が強く収縮するので、この筋の伸張反射亢進のため、前屈しているのではないかという考えもあります。首下がりは、パーキンソン病に比べると多系統萎縮症に多いとされています。特に顎が胸につくような高度な首下がりはほとんどが多系統萎縮症です1)

文献2では「パーキンソン病では首下がりを呈することは稀ですが、0.6%に首下がりを合併すると報告されています」と書かれています。

ここで言われている「首下がり」とはおそらく頚椎の屈曲をさしていると考えられます。パーキンソン病の頚部は顎が突出した頚椎伸展位を呈していることが多いと私は感じていて、書籍に書かれていることと一致しています。臨床経験が長いセラピストであればおそらく同意していただけると思います。

今回はパーキンソン病に少ない「首下がり」については割愛して、主に「腰曲がり」と「ピサ症候群」について考察していきたいと思います。

フィードフォワード系の問題5)6)

「傾いた垂直性」(ヒューマン・プレス発行)という興味深い書籍があります。脳血管障害でよく見られるpusher症候群について主に書かれた本ですが、その中に「パーキンソン病の垂直性」という章があります。

人間の姿勢保持には予測的姿勢制御(APAs:Anticipatory Postural Adjustments)の関与が大きいとされています。これは予測される動作や外乱を予想して、対抗するモーメントなどの力を生成する姿勢制御機構です。例えば、壁に刺さった釘を抜こうとする時に、あらかじめ下肢の筋が収縮して、後方に倒れないで引くことが出来るような動きもこの機構のおかげです。パーキンソン病が進行したヤールの分類Ⅲ以上で、APAsの低下や遅延が見られ、特有な姿勢制御やすくみ足にはAPAsが関連することが示唆されます5)

予測的姿勢制御には補足運動野が関与している可能性が言われています6)。補足運動野はブロードマン(Brodmann) の脳地図の6野に位置します。一次運動野の(中心前回:Brodmann 4野)の前方に位置します。6野の内側面が補足運動野、外側面が運動前野と呼ばれています。

文献3には6野の機能について次のように書かれています。

霊長類同様、ネコにおいても、大脳皮質の6野から橋・延髄網様体には豊富な皮質網様体線維が投射する。特に6aβ(霊長類の補足運動野に対応)からの終末は網様体の腹内側部に多く、6aγ(霊長類の運動前野に対応)由来の終末は網様体の内・外側部に一様に分布する。したがって、皮質網様体投射は網様体脊髄路系を介して、体幹・上下肢(四肢)のアライメント(姿勢)の変化や筋緊張レベルの制御に関与すると考えられる。

サルの6野に電気刺激を加えると反対側への偏向運動が誘発される。ヒトでも、6野の損傷により「運動麻痺が明瞭で無くとも姿勢制御が困難になる場合」や「動きが乏しい、運動をしたがらない、など、随意性の低下」がしばしば観察される。また、前頭前野~運動前野の病変では、駅の改札口や障害物の手前で「すくみ」が出現する場合もある。したがって、6野は「姿勢制御や運動の随意性」に関与する。皮質ー網様体投射の多くが6野に起始すること、そして、4野と6野の間には豊富な線維連絡があることを考慮すると、6野で「随意的な精緻運動」と「姿勢制御」のプログラムが生成され、前者は4野から外側皮質脊髄路を介して随意運動に、そして後者は皮質ー網様体投射と網様体脊髄路を介して姿勢制御に寄与すると考えられる。

この6野(運動前野、補足運動野)とパーキンソン病との病理的な関連ですが、ヤールの分類Ⅲ以上で予測的姿勢制御の障害は出現するとされています。stageⅢは中脳黒質の変性が始まり、運動機能の障害が起こり始める段階です。
→ 参考記事「パーキンソン病の病態概論

以前の記事「大脳基底核の解剖学」「無動・寡動はなぜ起こるのか?」で触れましたが、大脳基底核と大脳皮質(一次運動野、運動前野、補足運動野)は大脳皮質-大脳基底核ループを形成しています。中脳黒質の変性により大脳基底核の働きが障害されると、大脳皮質の機能にブレーキがかかります。それにより、補足運動野の機能も低下して予測的姿勢制御の障害が出現すると推測できます。

また、病気が進行するに従い大脳皮質自体も変性を起こし、その傾向は顕著になるでしょう。これが「腰曲がり」「ピサ症候群」の原因の一要素と考えられます。

感覚系の問題5)

私たちは自分の身体が真っ直ぐかどうか認識することができます。しかし、パーキンソン病の姿勢保持障害ではその感覚にも異常があるのではないかと考えられています。

パーキンソン病では前方に傾いた立位姿勢が特徴的ですが、それは重心が後方にあると身体が誤認識していて、その代償姿勢なのではないかという推論があります。

研究でも、前屈姿勢があるパーキンソン病患者に、30度前方に傾けたティルトテーブル上で垂直の姿勢知覚を促す練習を実施したところ、姿勢知覚、体幹、バランス能力が改善したという報告もあります。

Pereiraらは45名のパーキンソン患者と対照群に対して、パーキンソン病統一スケール(UPDRS:Unified Parkinson Rating Scale)、ヤールの分類と主観的視覚垂直(SSV)の検査を実施しました。その結果、SSVと姿勢の不安定性は強い相関を示し、パーキンソン病患者の中でも姿勢不安定な者のSSVが大きく逸脱していました。また、UPDRSとヤールの分類はSSVと正の相関を示していました。

この結果はSSVの低下がパーキンソン病の進行によるものであり、それが姿勢の不安定性に影響していることを表しています。文献5では「パーキンソン病患者の姿勢の不安定性は固有受容感覚と前庭感覚の情報の処理過程の欠落によって生じるものと考えられる」としています。

「カンデル神経科学」(P935)では次のように書かれています。

小脳では、前庭小脳(小脳小節、小脳垂、室頂核)と脊髄小脳(小脳前葉と中位核)という2つの領域が定位と平衡調節に影響を与える。これらの領域は、橋と延髄にある前庭神経核および脳幹網様体と相互接続している。脳幹と前庭小脳の病変は、頭部と体幹の制御にさまざまな異常をきたすだけでなく、開眼時でも垂直位から傾く傾向があるため、姿勢定位の内的表現に欠陥を生じると考えられる。脊髄小脳の病変では、閉眼時に悪化する過剰な姿勢動揺、歩行時の運動失調、過剰な姿勢反応が出現し、平衡反応が障害されると考えられる。橋や延髄のある種の領域は伸筋の筋緊張を増加あるいは減少させるので、抗重力の補助に影響を及ぼしうる。
脳幹と小脳は感覚入力が統合される領域であり、身体の定位や平衡の内部モデルは、これらの領域で生成されている可能性がある。

大脳基底核は大脳基底核ー脳幹系により橋、延髄と接続しているので、そこから前庭系の感覚処理に影響を与える可能性はあります。また固縮により筋肉の固有感覚が異常をきたすことはむしろ自然な流れであり、それらにより感覚系も姿勢保持障害に関与する一因子と言えるでしょう。

その他の問題

手元の文献を読んだ限りでは、上の2つの要素が姿勢保持障害においてよく書かれている内容でしたが、実際のパーキンソン病の姿勢保持障害では他にも様々な因子が複合的に影響を与えていると考えられます。

無動、固縮による反応の遅延

予測的制御機構と感覚系がある程度働いていたとしても、パーキンソン病の患者様では無動という症状があり、スムーズな反応に支障をきたしています。また固縮により滑らかな運動も障害されています。これらも付随的に姿勢保持障害を助長するでしょう。

中潜時反射、長潜時反射の低下

筋肉に刺激、伸張が加わると筋紡錘が反応しⅠa線維によりその刺激を伝達します。その際、腱反射のように刺激された筋肉が収縮するものを「短潜時反射」と呼びます。これは伸張反射、あるいは単シナプス反射とも呼ばれます。詳しくは「筋紡錘とゴルジ腱器官」を参照してください。

Ⅰa線維からの信号で、相反神経支配により拮抗筋に抑制に働くのが「中潜時反射」、さらにⅠa線維からの信号が大脳皮質に伝わり、そこから運動野を介して反応をするのが「長潜時反射」と呼ばれています。パーキンソン病では短潜時反射は健常者と変わらず、中潜時反射や長潜時反射に障害を起こすとされています8)

どちらかと言えば中潜時反射と長潜時反射は運動を円滑にする意味合いの方が強く、姿勢保持には強くは関与していないかもしれないですが、間接的に影響していることも考えられます。

回復した利用者様の経験

私が訪問している施設の話ですが、側方に傾斜が強いパーキンソン病の利用者様がいました。入所した頃はそれほどでもなかったのですが、徐々に傾きが強くなり、食事も身体を横にしながら食べているような有様でした。訓練も効果を期待できるものはなく、せいぜい二次的な拘縮を防ぐほどの期待しかできませんでした。食事が困ったので、傾く方向に物理的にクッションなどを介しましたが、さして効果もなく私としても為す術がない状態でした。

ちなみにベッドに臥床すれば傾斜はなくなるので、単純な廃用による拘縮ではなく、重力に対する筋緊張や感覚など何らかの反応の問題が示唆されました。

そんな時、通院先の病院でリハビリ入院をしたらどうかと勧められ、家族の希望もあり一時的に施設から離れました。3ヵ月ほど過ぎて再び施設に戻ってきた時、私は目を疑いました。身体が真っ直ぐになって自分で保持できているのです。

ご家族も驚いている様子で、退院する前日に見た時は施設と同じく横に傾いていて、リハビリの効果も感じていなかったとのことでした。病院では病室で1人でいる時間が多く、ひどく寂しがっていたとのことで、ご家族は「施設に帰ってきた時、職員さんが一同に『おかえり』『よく帰ってきたね』と声をかけてくれて、本人の目がすごく生き生きとしていたんです。そのことが関係しているんじゃないかなと思うんです」と話していました。

入院前と比べると、身体が真っ直ぐになった以外では精神的な高揚がよく見られました。前はしたことがなかったのに、詩を書いたり絵を描いたりして、職員さんに冗談を言って笑わせることもありました。その様子を見ると、確かにご家族が言うような原因も考えられると思うようになりました。

その後、その利用者様は精神的な高揚は見られず、用がなくても職員を呼ぶなど、むしろ不安を訴えることが多くなりました。Wearing-offの時間も増えていきました。しかし、身体の傾きは現在もそれほど出ていません。

私はパーキンソン病のピサ症候群や腰曲がりはいかなる方法でも治るものではないと認識していました。それだけに目の前で見た改善には驚きでした。

その機序を考えると、情動を司る扁桃体からの情報は腹側線条体を経由して補足運動野や中脳歩行中枢、脳幹の顔面神経核に投射します7)。つまり強い情動が補足運動野を刺激する可能性は考えられます。また、覚醒が上がったことで脳幹網様体が刺激されて、上行性網様体賦活路により大脳皮質が活性化されたことも可能性として考えられます(網様体と上行性網様体賦活系については「筋緊張を調整する中枢神経系(筋緊張を考える③)」を参照)。

いずれにしても、このような症状が薬剤を使わずに改善されたことは、今までの私の考えを覆しました。人に対して心の持ち方がいかに大切かを物語る事例だと思います。

主な引用・参考文献

1)水野美邦「パーキンソン病の診かた、治療の進めかた」中外医学社.2012
2)林明人(編)「パーキンソン病の医学的リハビリテーション」日本医事新報社.2018

斉藤秀之、加藤浩(編)「筋緊張に挑む ~筋緊張を深く理解し、治療技術をアップする!」文光堂.2015
3)高草木薫「大脳基底核による運動の制御」臨床神経学49:P325-334.2009
4)高草木薫「大脳基底核の機能;パーキンソン病との関連において」日本生理学雑誌65(4):P113-129.2003

5)網本和(編)「傾いた垂直性」ヒューマン・プレス.2017
6)Eric R Candel etc、金澤一郎 他(監)「カンデル神経科学」メディカル・サイエンス・インターナショナル.2014
7)中野隆(編著)「機能解剖で斬る神経系疾患」メディカルプレス.2011
8)山永裕明、野尻晋一「図説 パーキンソン病の理解とリハビリテーション」三輪書店.2010