固縮はなぜ起こるのか?(パーキンソン病のメカニズムとリハビリ⑧)

パーキンソン病

はじめに

「固縮」は「痙縮」とともに筋緊張異常でよく聞く症状です。学生時代に痙縮は錐体路の障害、固縮は錐体外路の障害による症状と教わりました。痙縮は「折りたたみナイフ現象(ジャックナイフ現象)」と言い、持続的に動かしているとある点から急に抵抗が弱まる現象が特徴的です。固縮は「歯車様」や「鉛管様」と例えられ、前者は歯車のようにガクガクッとした抵抗、後者は鉛管のようにどこまでも一様な硬い抵抗という2つの異なる特徴を持っています。実際の臨床では純粋な痙縮や固縮は少なく、両方の症状が入り混じった「痙固縮」という状態が多いと言われています。

さて、テーマである固縮ですが、他動的に筋を伸張した時、痙縮が速度に対して緊張を増すのに対して、固縮は速度には強く反応せず、伸展長の度合いにつれて抵抗感を増すとされています。その原因についてはγ運動ニューロンとα運動ニューロンの興奮性の上昇、Ⅰb抑制介在ニューロンの変化などによる脊髄反射回路異常、上位脳からの下行性経路障害、筋線維特性の変化などが推測されます1)

ただ、問題はこれらの異常がどのように起こるかであって、肝心のそのメカニズムについてはまだ解明されていません。文献でも症状について書かれているものの、その機序まで踏み込んだものは多くありません。

今回は少ない文献の記載から、固縮のメカニズムについてまとめたいと思います。仮説の段階をまとめたものですので、そのようにご理解いただき、個別にも各文献をあたっていただければと思います。

パーキンソン病と筋緊張

固縮のメカニズムの解明は難しいとはいえ、その手掛かりはいくつかあります。パーキンソン病の主要な症状であるというのもそのひとつです。パーキンソン病が延髄から始まり、上行性に障害を広げていくことは以前の記事(「パーキンソン病の病態概論(パーキンソン病のメカニズムとリハビリ ③)」)で説明しました。中脳黒質に進行が及ぶことでドーパミンの産生が減り、それにより大脳基底核の機能が障害されます。パーキンソン病の運動障害は主に大脳基底核に関連していると考えられています。

これを考えれば、固縮もまた大脳基底核が何らかの関与をしていると考えるのは自然なことだと思います。さて、大脳基底核と筋緊張の繋がりを考えると、大脳基底核-脳幹系に視点が動きます。

この図は以前の記事(「大脳基底核の解剖学(パーキンソン病のメカニズムとリハビリ⑥)」)に出てきました。大脳皮質ー基底核ループは「無動・寡動」に大きく関与します。この図の右側の部分が大脳基底核ー脳幹系で、筋緊張には脚橋被蓋核へのルートが関連していると考えられます。

筋緊張の下行性運動路

筋緊張をコントロールする下行運動路は、主に赤核脊髄路、前庭脊髄路、網様体脊髄路があります。それぞれについては「筋緊張を調整する中枢神経系(筋緊張を考える③)」に詳しく書いていますので、そちらを参考にしてください。さて、これら下行運動路ですが、大脳基底核と密接に関わっているという文献は多くありません。唯一、網様体脊髄路との関連について書かれた文献が見られました2)3)4)

高草木氏2)3)によれば、猫の脚橋被蓋核腹側に連続微小刺激を加えると筋緊張が消失すると述べています。また、網様体には緊張を促通する領域(主に橋・延髄網様体の腹側部)と抑制する領域(主に同背内側部)があり、抑制については屈筋、伸筋双方に誘発されるとしています。

網様体脊髄路には促通性に働くものと抑制に働くものの2種類があり、脚橋被蓋核はそのうちの抑制性網様体脊髄路に影響するとしています。つまり、脚橋被蓋核→橋・延髄網様体→網様体脊髄路(抑制性)というルートで、筋緊張を抑制しているという考えです。

そして、大脳基底核との関連についてですが、高草木氏2)は除脳ネコで実験をしています。除脳ネコは大脳皮質、辺縁系、視床下部、大脳基底核の大部分が除去されますが、大脳基底核の出力部分である黒質網様部は残存します。黒質網様部から脚橋被蓋核には神経線維の投射があり、大脳基底核と筋緊張の関連について考察を深める意図です。

実験では脚橋被蓋核への刺激で筋緊張は消失しますが、先行して黒質網様部への刺激を加えると、筋緊張は維持されました。黒質網様部単独の刺激では筋活動は変化せず、この結果から「基底核からの出力が増加すると、筋緊張は(低下せずに)高いレベルに維持される」ということがわかりました。

パーキンソン病の筋緊張においては「脚橋被蓋核に対する過剰な抑制は、筋緊張抑制系の活動を低下させ、筋緊張亢進を誘発する」としています2)

大脳基底核と筋緊張の関連(文献2の内容を模試化)

特に体幹では、抑制を受ける筋群(パーキンソン病により筋緊張が亢進する筋群)は姿勢筋(抗重力筋)で、伸筋か屈筋かの区別はないとされています。α運動ニューロンとγニューロンの中でも静的γニューロンの脱抑制が固縮を起こすと推測されています4)

静的γニューロンが特に関与しているということについては、伸張速度に関係なく、伸張度合いにより抵抗が増すという固縮の特徴と合致しているように思います。

パーキンソン病と長潜時反射4)

文献4(「図説 パーキンソン病の理解とリハビリテーション」)では長潜時反射の亢進も固縮に関与しているのではないかと述べています。腱反射のような単シナプス性反射は短潜時反射と呼ばれますが、他にも中潜時反射と長潜時反射があります。

中潜時反射とは多シナプス性の反射を指しています。腱反射の時に拮抗筋には介在ニューロンを介して抑制的に働きますが、これも複数のシナプスを介しているので中潜時反射です。長潜時反射とは大脳皮質を介した反射であり、Ⅰa線維の刺激が脊髄を上行して視床を経由して大脳皮質に伝わり、運動野を介して反応を起こすものです。

パーキンソン病では腱反射のような短潜時反射は正常ですが、中潜時反射と長潜時反射は増強していると報告されています。

また、健常者では字を書く時と重いものを持ち上げる時では運動ニューロンの興奮性が異なりますが、パーキンソン病では運動の種類に関係なく運動ニューロンの興奮性は同じと言われています。このことは、パーキンソン病の人が実際に動いている以上に動いている認識を持っている可能性があります。

まとめ

固縮について文献で調べられる範囲でまとめました。固縮のメカニズムについては仮説はあるものの、解明からはまだほど遠いように感じます。

実際の臨床では痙縮が混じった「痙固縮」という病態が多いとされています。それとは別にパーキンソン病では進行が進むと大脳皮質にも障害が起こりますし、もともとが延髄から発症することもあり、大脳基底核→橋・延髄網様体→網様体脊髄路という経路以外でも、筋緊張に関わる下行性運動路が障害されている可能性はないのかと考えてしまいます。

文献5(「パーキンソン病の診かた、治療の進めかた」)では「上肢の固縮は多く歯車様であるが、下肢の固縮は鉛管様のことが少なくない。固縮は頚部・体幹にも出現し、頚部の固縮は歯車様のことが少なくない。四肢の固縮と頚部・体幹の固縮は障害される経路が違うのではないかと感じるが、その理由は、四肢の固縮はパーキンソン病薬でよくとれるが、頚部・体幹の固縮は改善はするが残ることが多いことにある」と書かれています。

このような経験からも、固縮はひとつのメカニズムによる病態なのかという疑問があります。そもそも同じ固縮でありながら「歯車様」と「鉛管様」というふたつの病態があるのも不思議です。パーキンソン病由来で筋緊張が亢進するルートが複数あるのか、それとも大きな機序があってそこから二次的に派生していくのか、その概容について明らかにされるのを待ちたいと思います。

主な引用・参考文献

1)斉藤秀之、加藤浩(編)「筋緊張に挑む ~筋緊張を深く理解し、治療技術をアップする!」文光堂.2015
2)高草木薫「大脳基底核による運動の制御」臨床神経学49:P325-334.2009
3)高草木薫「大脳基底核の機能;パーキンソン病との関連において」日本生理学雑誌65(4):P113-129.2003
4)山永裕明、野尻晋一「図説 パーキンソン病の理解とリハビリテーション」三輪書店.2010
5)水野美邦「パーキンソン病の診かた、治療の進めかた」中外医学社.2012