筋紡錘とゴルジ腱器官(筋緊張を考える②)

治療のための基礎

筋緊張の異常について考えると、元の原因は中枢神経系であったり、末梢神経系であったり、姿勢制御であったり、色々とあるのですが、結局のところ、最終的には筋紡錘やゴルジ腱器官、それに関する神経の機能異常につながります。

筋紡錘やゴルジ腱器官というと、養成校時代に習うと思いますが、難しく感じた人も多いのではないでしょうか。私自身、とても理解に苦しんだことを覚えています。自分のことを考えると、筋緊張がいかに臨床に深く絡んでいるのか学生時代には分かっておらず、結び付きを見い出せないことで意欲も低かったのだと思います。

ここでは、筋緊張の初歩とも言える筋紡錘とゴルジ腱器官、およびそれに関連する神経系に関して、なるべくわかりやすく説明したいと思います。

筋紡錘とはなにか?

私たちが見ている筋肉は、筋束の集まったもので、筋束は筋線維(筋細胞)の集まったもので、さらに筋線維は筋原線維が集まったものです(図1を参照)。

図1 筋肉の解剖

このうち、筋紡錘は筋線維の間に埋もれて存在しています(図2を見てもらうとイメージがしやすいと思います)。筋紡錘は筋肉の中に組み込まれているセンサーのようなもので、筋肉の長さや張力など変化を検知しています。

図2 筋紡錘(引用「カラー版 人体の正常構造と機能」P628)

図2は模式的に書かれているので錘内筋線維は2本しか描かれていませんが、実際には筋紡錘はカプセルに7~8本程度の線維を包んでいます。筋紡錘の中の線維を「錘内筋線維」、外の線維を「錘外筋線維」と呼びます。このような呼び方をすると、あたかも筋紡錘がメインで錘外筋線維が脇役のように聞こえますが、「錘外筋線維」とは私たちが一般にイメージする筋肉で、「錘内筋線維」は筋紡錘の中にある特殊な線維だと考えれば良いと思います。

さて、筋紡錘の「紡錘」とは大辞林で調べると「糸をつむぐ道具」と書かれています。さらに紡錘形とは「錘(つむ)に似た中央が太く両端が次第に細くなっている形」とされています。糸をつむぐ時に、錘に糸が太く巻かれた形がおそらく筋紡錘のカプセルの形に似ているから名付けられたのではないかと思います。また、後で出てきますが、核袋線維や核鎖線維に樹状突起が巻かれている姿からも連想されているのではないかとも思います。そのような意味で、よく考えられた名前だと思います。

図3 糸をつむぐ道具「紡錘」から筋紡錘の名前は付けられた

筋紡錘の構造と分布

筋紡錘は7~8本程度の線維を包んでいると話しましたが、さらにその構造について詳しく述べたいと思います。

筋紡錘のカプセルの中に入っているのは核袋線維と核鎖線維という線維です。核袋線維は中央が膨らんだ形をしていて、核鎖線維は棒状の形をしています。核袋線維はさらに動的核袋線維と静的核袋線維に分けられます。細かく言うと核袋線維の「動的」「静的」は厳密に分けられるわけではないので、この呼び名には異論もあるのですが4)、多くの生理学書がこの分類を今も使用しているので、ここではこのように呼びたいと思います。

ひとつの筋紡錘に核袋線維は2~3本、核鎖線維は5本ほど包まれています1)。筋線維が直径20~100μm、長さ2.5~30cmなのに対し、核袋線維は直径12~25μm、長さ7~10mm、核鎖線維は直径12μm、長さ4mmとされています4)。核袋線維の両端はカプセルを出て筋内膜あるいは腱に付着しています4)。核鎖線維については書籍に言及はないのですが、核袋線維よりあきらかに短いことを考えると、図2のようにカプセル内で核袋線維と合流していると考えられます。

また、錘外筋線維に比べて、錘内筋線維は一般的に短く小さいのがお分かりいただけると思います。筋紡錘は筋線維に対してずっと寄り添うように配置されているというよりは、点在しているという理解の方が近いのではないかと思います。もちろん筋によってその分布に違いはあるでしょうが、一般的には図4のようなイメージで良いのではないかと思います。

図4 筋紡錘の分布の一例(引用「筋感覚研究の展開」P198)

筋線維は身近なものに例えると、クモの糸程度の太さ3)とされています。筋紡錘のカプセルの中には何本か線維が入っているので、筋線維と同じくらいか少し太いくらいの大きさと考えてもらえれば良いのではないでしょうか。

筋紡錘に関わる神経

筋紡錘とそれに関わる神経には、感覚神経と運動神経があります。感覚神経にはⅠa神経線維とⅡ神経線維があります。Ⅰa線維は全ての核袋線維、核鎖線維の中央部分にらせん状に絡まるように付着しています。これを一次感覚神経終末と呼びます。Ⅱ線維は静的核袋線維と核鎖線維の中央部分の両端にやはり絡まるように付着します。これを二次感覚神経終末と呼びます。

学生時代、私はⅠa神経線維をⅠa phasic、Ⅰa tonicと分類して習ったのですが、今回いくつかの成書を調べた際にはそのような分類は目につかず、臨床的にも基礎の段階ではあまり必要のない知識と考えて、ここでは触れていません。

筋紡錘に関係する運動神経には、α運動ニューロンとγ運動ニューロンがあります。両方とも脊髄の前角の神経細胞から末梢に走行しています。α、γと言うと、とても難しく感じますが、α運動ニューロンは私たちが手足を動かすような、一般的にイメージする筋肉の運動を伝える神経で、筋緊張のような持続的な収縮もα運動ニューロンが指示を伝えています。

γ運動ニューロンは筋紡錘の錘内筋線維につながっている運動神経です。錘内筋線維の中央ではなく、収縮部である両端に付着しています。γ運動ニューロンは、さらに動的γ運動ニューロンと静的γ運動ニューロンに分けられます。動的γ運動ニューロンは動的核袋線維にのみ付着し、静的γ運動ニューロンは静的核袋線維と核鎖線維に付着します。

図5 筋紡錘と神経線維の付着(引用「カンデル神経科学」p781)

また、運動神経には錘内筋線維、錘外筋線維両方を支配するβ運動ニューロンと呼ばれるものもあります4)(文献1ではβ軸索と表現されています)。このβ運動ニューロンは取り上げられていない書籍も多く、まとめるには情報量が少ないので、ここでは割愛します。興味のある方は文献4を読んでいただくと良いと思います。

筋紡錘の働き

筋紡錘は筋線維と並列に配置されていて、筋肉が伸ばされると筋紡錘の中の線維も伸ばされます。筋肉が伸長されると錘内筋線維が伸ばされて、そこに付着しているⅠa神経線維とⅡ神経線維を介して、脊髄に向かって活動電位を発し、α運動神経細胞が興奮して筋収縮が起こります。

この最も単純なループは「伸張反射」と呼ばれ、セラピストや治療家にとっては腱反射で馴染みが深いと思います。

また、Ⅰa神経線維とⅡ神経線維からの信号により拮抗筋の緊張は抑制されます。同じ求心性の信号からなぜ一方の筋肉には興奮、一方には抑制に働くのかというメカニズムについては、下の図を見るとわかりやすいと思います。求心性線維と拮抗筋のα運動ニューロンの間には抑制性の介在ニューロンがあります。そのため、拮抗筋については求心性信号が強いほどα運動ニューロンの抑制が強くなります。

図6 伸張反射(引用「カンデル神経科学」p779)

Ⅰa神経線維は伸張速度に感受性が優位とされており、振幅については小さく速いものに反応します4)。伸張反射はこちらの神経の反応によるところが大きいです。Ⅱ神経線維は主に筋の長さに感受性が高いとされています4)。このふたつの神経(それに後述のゴルジ腱器官を加えて)が筋肉の変化や長さの情報を中枢に伝えて、姿勢や運動を的確に行えるように働いています。

一方で、筋紡錘の運動神経であるγ運動ニューロンはどのような働きをしているのでしょうか?

仮に筋肉(錘外筋線維)が収縮した時、筋紡錘がそのまま変化しなければ、筋紡錘は筋肉と並列に配置されているので、たるんでしまいます。たるんだ状態の筋紡錘は反応が下がり、筋肉の状態を正確に伝えることができなくなります。γ運動ニューロンは錘外筋線維の収縮に合わせて、錘内筋線維を収縮させて筋紡錘の感度を保つ役割をします。

中枢から運動の指令が伝わる時、錘外筋を動かすα運動ニューロンだけでなくγ運動ニューロンもほぼ同時に興奮します9)。α運動ニューロンの興奮に対してγ運動ニューロンも興奮して、錘外筋と錘内筋の長さを適切に調整する働きのことを「α‐γ連関」と呼びます。行われる筋収縮に対して筋紡錘もほぼ同時に調整しているということです。

図7 α-γ関連

筋紡錘の感覚神経にはⅠa線維とⅡ線維、運動神経には動的γ、静的γがあり、それぞれ反応する刺激や支配する線維が異なります。この異なる線維が存在することで、状況に応じた筋緊張の調整が可能になります。

さて、このような筋肉と筋紡錘、伸張反射は実際に姿勢制御や運動にどのように関わっているのでしょうか?

少し古い本ですが、ブルーバックスの「体の反射のふしぎ学 足がもつれないのはなぜ?」には「サーボシステムーなぜトリは疲れて木から落ちない」と題して次のように書かれています。

センサー一般として、神経機構のなかで活用できるものを考えてみると、まず視覚があげられる。さらに体の三次元的な加速度認知装置として、内耳の三半規管がある。たしかにこれらは、補正装置として重要な働きをしているが、小鳥のような小さな生物でも、その回路は複雑すぎて補正までに時間がかかりすぎる。さらに都合の悪いことには、目を開けていなければならない。眠ってしまうと木から落ちるのでは困る。
(中略)
鳥が枝に止まって眠り込んだとき木が揺れて体が傾いたとする。すると筋肉が引き伸ばされ、同時に筋紡錘が引き伸ばされ、同時に筋紡錘が引き伸ばされて興奮する。その信号で、この引き伸ばされた筋肉を支配している運動神経が興奮して筋肉を収縮させるので、体位を元に戻すことができる。

引用:橘滋国「体の反射のふしぎ学 足がもつれないのはなぜ?」P163-164

サーボ(サーボ機構)とは大辞林によれば「自動制御機構のひとつ。制御の対象の状態を測定し、基準値と比較して、自動的に修正制御するもの」とされています。「カンデル神経科学」1)でも、このサーボ機構について触れています(P790-792)。

伸張反射は筋肉(錘外筋線維)と筋紡錘(錘内筋線維)と脊髄の間だけでループが成立しています。筋肉が縮めば筋紡錘が緩んで筋紡錘からの信号が弱くなり、筋肉は弛緩するように調整されます。筋肉が伸ばされれば、筋紡錘も伸ばされて、筋紡錘からの信号が強くなり、筋肉は収縮するように調整されます。

あらかじめ、中枢から筋肉の長さ(緊張)について基準が示されることで、それに対して伸張反射ループ(筋肉と筋紡錘の間)で修正が行われます。中枢はその基準を送り、時に変更することで、そこからは状況による微妙な変化に対しては伸張反射ループにより修正が行われます。

姿勢制御や運動時の筋緊張の変化は、このような中枢からの指示と伸張反射ループにより調整が行われています。筋紡錘は小さな筋肉や短分節筋でより多いとされていて7)8)、そのような客観的事実も上記のような姿勢制御に働くメカニズムと整合しています。

ゴルジ腱器官

筋の長さや張力を検知する組織は、筋肉以外にも存在しています。筋、腱接合部に存在するゴルジ腱器官です。ゴルジ腱器官は長さ約1mm、直径0.1mmほどの細長い構造体です。筋紡錘が筋長の変化を敏感に感知するのに対して、ゴルジ腱器官は筋張力の変化を敏感に感知するとされています1)

その被膜の中には、筋線維に直列に結合した数本の網状のコラーゲン線維が入っています。ゴルジ腱器官には感覚神経であるⅠb神経線維が付着していて、脊髄に向かって走っています。図6を見ていただくと分かりやすいと思うのですが、Ⅰb線維の神経終末はコラーゲン線維と絡みつくように接しています。

図8 ゴルジ腱器官(引用「カンデル神経科学」P786)

筋肉が収縮して腱が伸ばされると、その境目にあるゴルジ腱器官内のコラーゲン線維も伸ばされます。それによりⅠb線維の神経終末が刺激されて、脊髄に向かって活動電位が発生します。Ⅰb線維は脊髄に入ると、抑制性の介在ニューロンを介してα運動ニューロンを刺激します。それにより、α運動ニューロンは抑制の方向に働き、筋肉は弛緩する方向に向かいます。

図9 ゴルジ腱器官からの求心性経路とそれに伴う出力抑制(引用「カンデル神経科学」P787)

筋肉や腱に対して張力が加わった時、ゴルジ腱器官やそこから脊髄に向かうⅠb神経線維は、筋肉や腱が損傷しないように緩める作用に働きます。

さて、以前はゴルジ腱器官とⅠb神経線維の役割はこれで終始していたのですが、最近はⅠb抑制性介在ニューロンには、皮膚受容器、関節受容器、筋紡錘、下行路からの入力があることがわかっています。上図のように皮膚受容器や関節受容器からの信号はⅠb抑制性介在ニューロンを抑制、つまりα運動ニューロンを興奮の方向に導きます。

Ⅰb抑制性介在ニューロンにこれらゴルジ腱器官の他にも皮膚受容器、関節受容器、筋紡錘、下行路など多くの求心性の信号が送られるという事実は、ゴルジ腱器官→Ⅰb神経線維→Ⅰb抑制性介在ニューロン→α運動ニューロンという走行が単純な「筋肉が伸張された時に損傷を防ぐために自ら緩ませる」という防御的な役割だけでなく、筋肉の詳細な動きを感知して筋緊張を調整するという役割を担っていることを示唆しています。

Ⅰb抑制性介在ニューロンについては詳しくは「カンデル神経科学」P782-784に解説が載っていますので、そちらを参考にしてください。

まとめ

筋緊張を考える上で基礎となる筋紡錘とゴルジ腱器官についてまとめました。Ⅰa、Ⅰb、Ⅱ、α、γなど記号がたくさん出てくると何か難しそうに感じますが、整理して考えることで理解もしやすくなると思います。下に筋紡錘に関連する神経について表にまとめました。


この筋紡錘、ゴルジ腱器官、脊髄、骨格筋のループが筋緊張の末梢システムであり、これに中枢からの調整が働くことで、適切な筋緊張ひいては円滑な姿勢制御や運動につながります。次回の「筋緊張を考える」では、筋緊張における中枢神経系の役割について書きたいと思います。

主な参考・引用文献

1)Eric R Candel etc、金澤一郎 他(監)「カンデル神経科学」メディカル・サイエンス・インターナショナル.2014
2)坂井建雄,河原克雅(総編集)「カラー図解 人体の正常構造と機能 改訂第2版」日本医事新報社.2012
3)ハンス-ヴィルヘルム・ミュラー-ヴォールファートなど(編集)、福林徹(監訳)「スポーツ筋損傷 診断と治療法 ペーパーバック普及版」ガイアブック.2014
4)伊藤文雄「筋感覚研究の展開 改訂第2版」協同医書出版社.2005
5)Peter Duus,半田肇(監訳)「神経局在診断 第3版」文光堂.1988
6)橘滋国「体の反射のふしぎ学 足がもつれないのはなぜ?」ブルーバックス.1994
7)Keith L Moore 他,佐藤達雄、坂井建雄(監訳)「臨床のための解剖学 第2版」メディカル・サイエンス・インターナショナル.2016
8)Donald A Neumann、嶋田智明,有馬慶美(監訳)「カラー版 筋骨格系のキネシオロジー 改訂第2版」医歯薬出版株式会社.2012
9)斉藤秀之、加藤浩(編)「筋緊張に挑む ~筋緊張を深く理解し、治療技術をアップする!」文光堂.2015