筋緊張を考える

治療のための基礎

「筋緊張」はセラピストや治療家にとって、切っても切り離せない存在ではないでしょうか。身体の不調や運動障害に悩んでいる方のほとんどに、この筋緊張の問題が絡んでいます。患者様の筋緊張を自在にコントロールすることができたら、どれだけの人を救えるか、多くのセラピストや治療家がこの考えに同意していただけると思います。

それだけ治療の大きな要素でありながら、そのメカニズムについて説明してくださいと言われると、なかなか難しいというのが実際ではないでしょうか。

筋緊張について、ある本では「筋が引きのばしに抵抗する力」1)とされていて、ある本では「筋が絶えず不随意に一定の緊張状態を保っている現象」2)と書かれています。少し長いですが、ある本では「随意的な収縮を行わず脱力状態にある時、筋を摘むと”張り”がある。脱力状態であっても骨格筋は随意運動伝導路の刺激によってわずかに収縮しているためであり、この”張り”を筋緊張と言う」3)と定義しています。

私たちが筋肉を収縮させると言うと、ものを持ち上げたり、力こぶを作ったり、力を発揮する状態を想像しがちです。しかし、実際は意識的に力を入れなくても、筋肉は普段からわずかに収縮しています。この不随意に収縮した状態、あるいは張力を筋緊張と私は考えています。

なぜ、筋肉は普段から収縮、緊張していなくてはならないのでしょうか? 筋肉にはものを持ち上げるような力を発揮する場面だけではなく、身体を支える姿勢制御的な役割も担っています。また、身体には突発的な刺激に対して意識で判断するよりも速く反応をする「反射」という機能も備えていて、それを動きとして実行するのも筋肉の役割です。

重力がかかる環境であれば、多くの筋肉は身体を支えているために収縮している必要があります。また、全く筋緊張がない場合では、突発的な刺激に対して素早く反応することができません。ある程度の緊張を保っているからこそ、刺激が加わったことを関知することができて、反応することができます。

筋緊張というのは、人が動いて生活する上でなくてはならないものです。

私が理学療法士に成り立ての頃、あるセミナーで筋緊張について次のような図を描いて説明されました。講師の先生の名前は忘れてしまったのですが、ボバース療法の公認セラピストの方だったと思います。

「筋緊張は単純にその張力をもって高い、低い、正常と判断できるものではない。例えば、寝ていてリラックスしている時は緊張が低いのが正常であるし、これから力を入れようとする時には緊張が高いのが正常である。中枢神経系は状況に合わせて適切な筋緊張になるように調節している。筋緊張の異常とは、本来あるべき緊張から逸脱した状態のことである」

20年近く前のことですが、教えてもらったことを今でもはっきり覚えています。中枢神経疾患に限らず、運動を適切に行う上で筋緊張は重要な要素を占めています。また、姿勢制御や痛みとも強く関連します。

この筋緊張がどのようなメカニズムで調節されているのか? これから「筋緊張を考える」と題して、いくつかの記事をシリーズとして書いていきたいと思います。それはセラピストや治療家にとって、多くは学生時代に習った内容かもしれません。しかし、臨床で経験を積んでから学ぶことで、その理解は格段に良くなり、実学として身体に染み込むものがあるはずです。それは日々の業務の大きな栄養になるでしょう。この患者様はなぜこのような筋緊張を示すのか? それを考えて臨床に生かすきっかけになれば、これ以上嬉しいことはありません。

主な参考・引用文献
1)Eric R Candel etc、金澤一郎 他(監)「カンデル神経科学」メディカル・サイエンス・インターナショナル.2014
2)斉藤秀之、加藤浩(編)「筋緊張に挑む ~筋緊張を深く理解し、治療技術をアップする!」文光堂.2015
3)中野隆(編著)「機能解剖で斬る神経系疾患」メディカルプレス.2011