超基礎から学ぶ神経講座

治療のための基礎

生物の身体を考える上で神経の働きは欠かせないものです。脳、心臓、肺、筋肉、全ての働きは神経がなくては成立しません。

神経疾患を知るには神経の理解が不可欠ですし、整形外科疾患についても、痛みには神経が密接に関与しますし、運動でも筋肉を最適に動かすには神経の正常な働きが必要です。

その神経について今回は、解剖学、生理学で最初に習う段階をなるべくわかりやすくまとめたいと思います。

神経の最小単位「ニューロン」

私たちが解剖学書などで見る坐骨神経や正中神経などの末梢神経は、1本の神経の太い線維で作られているわけでなく、その内面は多くの小さな線維によって詰まっています。表層の神経上膜の下に、神経周膜に包まれた神経線維束があり、さらに神経内膜に包まれた神経線維があります。この内膜に包まれた線維が神経の最小単位です。

末梢神経の断面図(引用:「臨床のための解剖学 第2版」P50より)

神経の最小単位を「ニューロン」と呼びます。細胞体、樹状突起、軸索(神経線維)、髄鞘、神経終末など含めた1まとまりを示す名称です。大脳から末梢まで身体の至る部分に張り巡らされている神経ですが、どの場所でもニューロンの基本的な構成は同じです。例えば細胞体がないニューロンや軸索がないニューロンはありません。髄鞘については有していない神経線維もあり、有髄神経、無髄神経として区別されます。詳しくは後述します。

樹状突起は他の神経や受容器からの信号を受け取る神経の「入力部」と言えます。軸索とそれに続く神経終末は他の細胞体に信号を伝える「出力部」と言えます。軸索の長さは数µmのものから1mに及ぶものまであります。

ニューロンの構成はどれもだいたい一緒ですが、働きによって若干形状が異なります。形状の違いにより①単極性、②多極性、③偽単極性、④双極性に分けられます。

単極性ニューロン

細胞体に対して突起がひとつしかないニューロンです。文献2には「下等生物に見られる」と書かれています。手元のどの本にも言及されたものがなく確認できないのですが、おそらく人間の身体には存在しない種類のニューロンだと思います。

多極性ニューロン

細胞体からは樹状突起や神経突起(軸索が出てくる部分)という突起部が伸びていますが、これが3本以上出ているのものを多極性ニューロンと呼びます。骨格筋を支配する全ての運動ニューロンと自律神経系を構成するニューロンはこの多極性の形状をしています1)

偽単極性ニューロン

細胞体からは一本の突起しか出ていませんが、それが途中で2つに分かれます。一見、単極性に見えるので「偽単極性」と呼ばれます。いくつかの例外を除き、感覚ニューロンは全て偽単極性です1)。この場合の感覚ニューロンとは、末梢の感覚受容器から脊髄後角までの末梢求心性線維と考えてもらえると良いと思います。脊髄後角から脳などに向かう中枢神経の求心性線維は多極性ニューロンです。

双極性ニューロン

細胞体から反対方向に1本ずつ突起が出ている形状のニューロンです。感覚ニューロンのうち、嗅覚、視覚などいくつかの特殊感覚はこの形状をしています1)

神経の伝達速度「有髄神経と無髄神経」

神経の伝達速度は一般に軸索の径が太くなるにつれて速くなり、直径(µm)×6=伝導速度(m/sec)の関係にあります2)。また、神経は髄鞘により軸索が包まれている「有髄神経」と髄鞘がない「無髄神経」に分けられます。

髄鞘はコレステロールの含有率が高く絶縁性に優れています。髄鞘と髄鞘の途切れ目であるランビエ絞輪は、髄鞘に覆われた部分の軸索よりも太く、この部分の軸索膜には豊富なナトリウムチャネルを有しています。つまり、ランビエ絞輪は通常の軸索部分よりも電気信号に対して速い反応をする構造になっています。

有髄神経の電気信号は、絶縁性の髄鞘を越えて、ランビエ絞輪間を飛び飛びに伝わっていきます。このような電気信号伝達を「跳躍伝導」と呼びます。これにより有髄神経は無髄神経に比べて興奮の伝達速度が速くなっています。

有髄神経にも髄鞘が太い、薄いなどで伝導速度に違いがあります。神経線維の分類には2種類あります。太さや伝導速度でA・B・Cと名付ける文字式分類(Erlanger、Gasser 1937年)とⅠ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ群と名付ける数字式分類(Lloyd 1943年)です。両方とも神経の太さと速さによる分類法です。数字式分類は神経の中でも筋肉、骨、腱からの求心性線維に特化した分類です。

神経線維のErlangerとGasserによる文字式分類(引用:丸山一男「痛みの考えかた」南江堂 P22より)

引用:「カラー図解 人体の正常構造と機能 改訂第2版」P581を一部改変

上の表のうち、無髄神経はC線維(Ⅳ線維)のみで、他は有髄神経です。痛みの感覚についてはAδ(Ⅲ)、C(Ⅳ)の2種類があります。それ以外の部位に比べて内臓ではC線維の分布が多いのが特徴です。そのため、例えば肩や膝の痛みであればはっきり部位を示すことが容易ですが、腹痛などでは鈍くうずくような痛みで部位もぼんやりしていると思います。神経の種類の違いにより痛みの質も変わるのです。

シナプスと神経伝達物質

ニューロン自体は電気信号を送る単純な役割でプラスかマイナス(全か無か)しかありません。そのニューロンが生体の複雑な機能を実現するには、多くのニューロンが複雑に作用し合う必要があります。その役割の一端を担うのがシナプスと神経伝達物質と言えます。

シナプスとは神経間の接合部や神経と効果器(筋肉や感覚器)の接合部をさします(下図の赤丸の部分)。

シナプスでは、前のニューロンと後ろのニューロン(あるいは効果器)の間で活動電位が伝わる必要があるのですが、そのために重要な役割をするのが「神経伝達物質」です。ニューロンが興奮すると、軸索に活動電位が伝わり、神経終末のシナプス前膜からシナプス間隙(神経間、あるいは神経と効果器間のわずかな隙間)に神経伝達物質が放出されます。シナプス後膜にある「神経伝達物質受容体」が神経伝達物質を受け取ると、その物質に対応した反応を起こします。

”その物質に対応した反応”というのは、その神経伝達物質によって受容体は脱分極(興奮→信号を伝える)か過分極(抑制→信号を伝えにくくする)か反応が変わります。同じ神経伝達物質であっても、受容体によって反応が変わります。逆を言えば、受容体が同じでも神経伝達物質によって反応が変わるとも言えます。そのため、ニューロンにはその部位によって「興奮性」に働くものと「抑制性」に働くものがあります。

中枢神経系のシナプス伝達(引用:「カラー図解 人体の正常構造と機能 改訂第2版」日本医事新報社.P586より)

神経と筋肉間のシナプス(神経筋接合部)においては1本の筋線維が単一の神経線維から入力を受けるというシンプルな仕組みになっています2)。しかし、神経間の接続においては1本のニューロンから1本のニューロンへと言うような単純な仕組みではなく、上の図のようにひとつのニューロンに多くのニューロンから信号が送られます。ひとつの前ニューロンが興奮を伝えたからといって、後ニューロンが興奮するには十分でなく、多くのニューロンからの入力を統合して興奮するかしないかが決まります。

神経伝達物質、受容体に多くの種類があることと、神経の巧妙な配置により、人体の複雑な機能を実現しています。

主な参考・引用文献
1)Keith L Moore 他,佐藤達雄、坂井建雄(監訳)「臨床のための解剖学 第2版」メディカル・サイエンス・インターナショナル.2016
2)坂井建雄,河原克雅(総編集)「カラー図解 人体の正常構造と機能 改訂第2版」日本医事新報社.2012
3)丸山一男「痛みの考えかた しくみ・何を・どう効かす」南江堂.2014
4)Eric R Candel etc、金澤一郎 他(監)「カンデル神経科学」メディカル・サイエンス・インターナショナル.2014