大脳基底核の解剖学(パーキンソン病のメカニズムとリハビリ⑥)

パーキンソン病

パーキンソン病は大脳基底核疾患(あるいは大脳基底核変性疾患)と区分されることもあり、パーキンソン病の症状を理解するには、まず大脳基底核をよく知ることが大切です。今回は大脳基底核についてなるべくわかりやすくまとめたいと思います。

大脳基底核とは

大脳基底核は大脳の底部に位置する灰白質の塊です。灰白質とは神経細胞が密集して灰白色をしている部分です。大脳皮質も灰白質であり、薄い茶色をしていますがそれも神経細胞が集まっているためです。ちなみに灰白質以外の白い部分は白質と言われて、そこは神経線維の集まりです。

灰白色とは定義的には「灰色を少し含む白色」ですが、灰白質自体は肉眼ではごく薄いピンクや茶色に見えます。

灰白質の塊、つまり神経細胞の集合体を「神経核」とも言います。大脳基底核は大脳皮質、視床、脳幹を結びつけている神経核であり、内包により視床や視床下部から隔てられています。脳幹なども含めた脳全体で言うとちょうど中心部にあるように見えます。

脳全体における大脳基底核の位置(引用:「神経局在診断 第3版」P275より)

大脳基底核の構成

大脳基底核は、尾状核、レンズ核、偏桃体、前障から構成されます。黒質や視床下核も機能的には大脳基底核に同様か近い部分があり、広義で含めることもあります。反面、偏桃体は機能的には大脳辺縁系にみなされます。

レンズ核は外側部の被殻と内側部の淡蒼球からなり、淡蒼球はさらに外節と内節に分類されます。尾状核や被殻は大脳皮質や黒質からの運動情報を受け入れる部位、すなわち大脳基底核の「入力部」であり、合わせて「新線条体」と呼ばれます。また尾状核とレンズ核を合わせて「線条体」と呼ばれることもあります。淡蒼球内節は黒質網様部とともに視床に向けて情報を投射する部位、すなわち大脳基底核の「出力部」と言えます。淡蒼球外節は、視床下核とともに「入力部」と「出力部」の間の中継点の役割をしています1)

大脳基底核の構成(引用:「機能解剖で斬る神経系疾患」P139より)

大脳基底核の位置関係(引用:「カラー図解 人体の正常構造と機能 改訂第2版」P615より)

鳥類以下の脳では大脳基底核が運動の最高中枢ですが、人間では新皮質(大脳皮質のうち、系統発生学上で最も新しい部分)が発達したために基底核は下位中枢になっています。淡蒼球は内側になだらかな円錐状をしており、被殻はその名前の通り、淡蒼球に覆い被さるような形をしています。被殻と尾状核は奇妙な連結をしていますが、もともと両者は一体で、内包の線維束により貫かれ分離したものです。また、淡蒼球内節と黒質網様体ももともと一体であったのが内包により分離されたものです3)

大脳基底核の「入力部」である尾状核と被殻がかつて一体であり、「出力部」である淡蒼球内節と黒質網様体もかつて一体であったという事実は、機能生理的にも理にかなっています。

大脳基底核の神経路と役割

運動における神経路はかつて、錐体路と錐体外路のふたつがあると考えられていました。自らの意思により手足を動かすなど運動を伝える経路が錐体路系であり、それを無意識に適した動きになるように調節をしているのが錐体外路系の役割です。錐体外路系の働きがないと、例えばコップをとろうとしても目測を誤ったり、適切な力が入らずにコップを落としたり、つかんでも口に上手く運べずにコップを顔にぶつけたりします。

錐体路が大脳皮質から脊髄へと下降するのと同様に、錐体外路も大脳基底核から独自のルートで脊髄を下降して運動の調節に働くと考えられていました。しかし最近は大脳基底核から脊髄へ直接つながる経路、すなわち錐体外路という神経路は存在しないというのが定説です。ただし、随意運動(意思による運動)の問題である錐体路症状と、調節や微調整の問題である錐体外路症状は臨床上しっかり区別する必要があるので、「錐体外路症状」という言葉は現在も聞かれます。

さて、大脳基底核は前述のように直接、脊髄に下降するような経路は持たず、また、末梢からの情報を受け取ることもほとんどありません。受け取っているのはほとんど大脳皮質からの情報です。大脳皮質の運動関連領域からの情報を「入力部」である尾状核と被殻が受け取り、「出力部」である淡蒼球内節と黒質網様体部から、視床、上丘、脚橋被蓋核へ情報が送られます(入力部から出力部への経路には少し複雑な機構があるのですが、その点は後の記事で書きたいと思います)。

大脳基底核から視床への神経ルートは元の大脳皮質に戻ります。これを「大脳皮質-基底核ループ」と呼びます。また、上丘や脚橋被蓋核へのルートは「基底核ー脳幹系」と呼びます。大脳皮質-基底核ループで修飾された情報は、皮質核路や皮質脊髄路を、基底核ー脳幹系は脳幹からの下降路をそれぞれ経由して行動を制御しています4)

※ 錐体外路系には他に小脳系の働きもありますが、ここではパーキンソン病に関わりの深い大脳基底核関連の内容について取り上げ、小脳系の説明は割愛しています。

以前の記事(「パーキンソン病の歴史と背景(パーキンソン病のメカニズムとリハビリ ②)」)で、1983年にデロングが大脳皮質-基底核のループ概念を提唱したことと、1990年にアレクサンダー、クラチャーが基底核-視床-大脳皮質の神経回路網を発表し、直接路と関節路の概念を示したことが、パーキンソン病のメカニズムを考える上で大きな道標になったと書きました。上図の左側がこの概念、理論が反映されている部分です。

大脳皮質-基底核のループはひとつではありません。アレキサンダーらは1986年に次の5つのループを提唱しています。①運動ループ、②眼球運動ループ、③前頭前野背外側ループ、④眼窩前頭皮質外側部ループ、⑤前帯状回ループです4)

大脳皮質-基底核ループの役割
①運動ループ:後述。
②眼球運動ループ:眼球運動の制御に働く。
③前頭前野背外側ループ:認知情報やワーキングメモリーを有効に活用し、意思の発動や行動計画、注意、社会行動などの発現に関与する。
④眼窩前頭皮質外側部ループ:③とともに認知情報の評価、情動や感情の表出、意欲などに関与する。
⑤前帯状回ループ:情動や動機付けに関する重要な刺激に反応して運動を開始する。

運動ループにおいては、補足運動野、運動前野、一次運動野との間にループを形成しています。補足運動野や運動前野は運動準備や運動プログラムに、一次運動野は運動遂行(運動量や運動速度)に関与します4)

パーキンソン病の進行によって中脳黒質が変性し、そこから産生されるドーパミンが減少することで大脳基底核の機能が障害されます(その細かいメカニズムについては後の記事で説明します)。ここでは大脳皮質-基底核ループしか詳しく説明していませんが、そこだけでも運動準備、運動プログラム、運動量、運動速度、眼球運動、情動、感情、意欲、動機付けなど様々な機能に関与しています。

パーキンソン病が様々な症状を引き起こすことの理由が、ここからいくらか感じ取れるのではないでしょうか。次の記事からは個別の症状について細かく説明していきます。

主な参考・引用文献
1)中野隆(編著)「機能解剖で斬る神経系疾患」メディカルプレス.2011
2)Peter Duus,半田肇(監訳)「神経局在診断 第3版」文光堂.1988
3)坂井建雄,河原克雅(総編集)「カラー図解 人体の正常構造と機能 改訂第2版」日本医事新報社.2012
4)山永裕明、野尻晋一「図説 パーキンソン病の理解とリハビリテーション」三輪書店.2010