レビー小体型認知症と多系統萎縮症(パーキンソン病のメカニズムとリハビリ⑤)

パーキンソン病

パーキンソン病にレビー小体やα-シヌクレインが関連していることは、今までの記事を読んでいただくとよく分かると思います。ここで話が少し逸れますが、このレビー小体やα-シヌクレインと関わりが深い二つの疾患について触れたいと思います。これらの病気とパーキンソン病との関連を知っておくと、知識の整理がつきやすいと思います。

レビー小体型認知症

パーキンソン病の脳内や末梢自律神経にレビー小体が存在すると聞いて、読んでいる方の中には「レビー小体型認知症」を頭に浮かべた人もいるのではないでしょうか?

以前はパーキンソン病は運動機能障害は現れても、認知機能に障害はきたさない、つまり認知症にはならないと考えられていました1)。もし、パーキンソン病の患者に認知症があっても、それはアルツハイマー型認知症などが併発していると考えられていました。

もともとレビー小体は延髄や中脳に出現するもので、大脳皮質や大脳辺縁系には出現しないか、出現してもごく少数だというのが一般的な考え方でした。しかし、1970年代後半から小阪憲司の一連の研究により、大脳皮質や大脳辺縁系にもレビー小体が見られることが着目されるようになりました。1980年代半ばには欧米でも大脳皮質型のレビー小体の報告が多く見られるようになり、1996年にはレビー小体による認知症を「レビー小体型認知症」と呼ぶことに決まりました。小阪氏の業績を考慮して「小阪病」と名付ける案もありましたが、人名を病気に名付ける傾向が減る中でこの名前となりました1)

レビー小体型認知症は、記憶障害、見当識障害、判断力、理解力の低下など他の認知症と同じ症状が見られます。ただし、初期~中期の段階では記憶障害が目立たない一方で、幻視、レム睡眠行動障害、抑うつ症状、パーキンソニズムなど、特徴的な症状が現れることが少なくありません1)

幻視とは「天井にネズミがたくさん走っている」「部屋の外から誰か覗いている」など本来ないものが見える症状です。レム睡眠行動障害とは睡眠中に悪夢を見て、大声で叫んだり、怒ったり、暴れたりという行動を起こすことで、ものを壊したり、一緒に寝ているパートナーを傷つけたりすることもあります。症状が治まると目が覚めたように元の状態に戻ります。

レビー小体型認知症はレビー小体が出現するという点でパーキンソン病と同じです。認知症状をきたすものの、大脳皮質の萎縮はあまり目立たず、記憶や本能・情動に関わる側頭葉内側部や海馬がよく保たれていることも多くあります。ただし、脳幹では黒質や青班核の変性があり、肉眼的にはパーキンソン病と違いがありません1)

大脳皮質、大脳辺縁系への広範なレビー小体の出現がレビー小体型認知症の特徴とされていますが、認知症状があっても、レビー小体の出現が大脳辺縁系、脳幹にとどまる症例もあり、パーキンソン病との明瞭な病理的区分がないというのが現在の状況です2)

レビー小体が出現する病気のうち、認知症状が先行、あるいは主症状なものが「レビー小体型認知症」であり、運動症状が主症状なものが「パーキンソン病」というのが現在の主な考え方です。以前は運動症状の出現から1年以内に認知症状が出た場合はこれもレビー小体型認知症に含めるという基準がありましたが、外来でこれを判断するのは難しいため、現在では外されています2)

レビー小体が出現する病気は他に純粋自律神経不全症があり、パーキンソン病やレビー小体型認知症と合わせて、これらを「レビー小体病」と総称することもあります。つまり、レビー小体が異常発生する病気のうち、強く前面に出る症状が運動症状ならパーキンソン病、認知症状ならレビー小体型認知症、自律神経障害なら純粋自律神経不全症という考え方です。

多系統萎縮症

レビー小体病が3つの疾患をひとつのスペクトラム(範疇)でまとめた概念であるのと同様に、多系統萎縮症も症状ごとに3つの疾患がまとめられた概念とも言えます3)

多系統萎縮症は錐体外路系(被殻、黒質)、自律神経系(迷走神経背側核、胸髄側角)、小脳、橋などの白質の神経膠(稀突起膠細胞)に、glial cytoplasmic inclusion(GCI)と呼ばれる封入体が特異的に出現します。パーキンソン様の運動症状を主徴とする線条体黒質変性症、起立性低血圧など自律神経症状で初発するShy-Drager症候群、脊髄小脳変性症の範疇に含まれるオリーブ橋小脳萎縮症の3つを包括した疾患概念と言えます3)

この多系統萎縮症の病理マーカーとなっているGCIもレビー小体病と同じく、α-シヌクレインが凝集したものであり、この2つの疾患概念はα-シヌクレオパシー(α-シヌクレイン異常症)とまとめて呼ぶこともできます1)3)

主な参考・引用文献
1)小阪憲司・織茂智之「「パーキンソン病」「レビー小体型認知症」がわかるQAブック」」メディカ出版.2011
2)水野美邦「パーキンソン病の診かた、治療の進めかた」中外医学社.2012
3)中野隆(編著)「機能解剖で斬る神経系疾患」メディカルプレス.2011