パーキンソン病の原因と病理プロセス(パーキンソン病のメカニズムとリハビリ ④)

パーキンソン病

研究が進んでいるパーキンソン病ですが、その原因については現在でもはっきり分かっていません。しかし病気が発生するまでの過程や、原因の手掛かりになるような発見はいくつかありました。

それは様々な角度からの知見であり、一見すると断片的でまとまりがありません。ここではそれぞれの情報を提示するとともに、読んでいただく人になるべく相互の関連がイメージしやすいようにまとめたいと思います。

レビー小体とα-シヌクレイン

過去に記事に書いた通り、パーキンソン病患者の脳にはレビー小体という特殊なタンパク質が多く見られます。しかし、このレビー小体自体が身体に問題を起こしているかと言えば、そこは意見が分かれるところで、原因というよりも変性に至る一過性を示すという考え方が有力です1)

レビー小体はα-シヌクレインという物質が小球状に凝集したものです。α-シヌクレインはシナプス前膜と核に存在するタンパク質で、神経伝達に働いているのではないかと推測されています。α-シヌクレインは凝集する過程で神経毒を発生させると言われています。

生体内のタンパク質は本来の機能を発揮するために、適した形状に折りたたまれる必要があります。この折りたたむ過程をフォールディングと言います。そこで上手く加工されないと、不良品(ミスフォールド)として除去されます。レビー小体にはこのミスフォールドのα-シヌクレインが多く含まれていることがわかっています。

マウスの脳に野生型、あるいは変異型のα-シヌクレインを発現させると、ドーパミン神経終末が特異的に変性して運動機能が低下します。またレビー小体に似た凝集物が出現します。またショウジョウバエでも脳にα-シヌクレインを過剰発現させると、ドーパミン神経細胞死が起こり、レビー小体様の細胞封入体が現れます3)。実験からもレビー小体やα-シヌクレインのパーキンソン病への関与が示唆されます。

パーキンソン病はプリオン病の進行過程に似た機序があるのではないかと推測されています2)。プリオン病は正常プリオン蛋白が何らかの理由で伝播性を有する異常プリオン蛋白に変化し、主に中枢神経内に蓄積することにより急速に神経細胞変性を起こす病気です4)。異常プリオン蛋白は神経細胞間を移動して、正常なプリオン蛋白を異常プリオン蛋白に変質させます。

レビー小体やα-シヌクレインも死んだ神経細胞から別の神経細胞に取り込まれ、神経細胞間を伝播して脳内を上行していくと考えられています2)

α-シヌクレインは正常な人体にも存在する蛋白質ですが、凝集して蓄積することで人体に悪影響を出します。レビー小体(α-シヌクレインが凝集したもの)は病気でない老人でも見られますが、パーキンソン病ではその量が異常に増えています。何らかの原因でミスフォールドのα-シヌクレインの分解が阻害されて細胞内に蓄積すると考えられます。

酸化ストレスとミトコンドリア障害

パーキンソン病の脳では活性酸素の増加が確認されています。活性酸素とは「酸素分子が水に還元される途中の段階で生じる毒性の高い酸素分子種である」とされています2)。体内に取り込まれた酸素のほとんどはミトコンドリアでATPの産生に使用されて、二酸化炭素(CO₂)と水(H₂O)に分解されるか、肺呼吸によって体外に排出されます。しかし中にはエネルギー代謝に使われず、他の性質を持った酸素分子となります。例えば、スーパーオキサイドアニオン、過酸化水素、ハイドロキシルラジカルという活性酸素がそれに当たります。

活性酸素の性質を考える時、「酸化」という言葉でイメージしてもらうと分かりやすいのではないでしょうか。リンゴの中身が空気に触れて色が変わるのも、鉄がさびるのも酸化によるものです。一方で、除菌、殺菌、漂白などの商品にも酸化の作用が使われています。活性酵素は他の物質に結合して酸化する働きが強くなります。

活性酸素は病気でない身体にも少量は存在していて、ウイルスや細菌などを攻撃する働きをしています。しかし、必要以上に増えることで、自分の身体を傷つけることになります。パーキンソン病の中脳黒質では活性酸素の上昇が確認されています。

次にパーキンソン病の中脳黒質ではミトコンドリアの機能低下が見られます。ミトコンドリアが機能低下を起こすことで、酸素分子が正常に水に還元されずに活性酸素が増大します。活性酸素はミトコンドリアの破壊もしますので、悪循環となっていきます。

酸化ストレスとミトコンドリア障害の関係ですが、酸化ストレスはα-シヌクレインの凝集を促進させて神経毒を発生します。α-シヌクレインの毒素はドーパミン貯蔵顆粒からドーパミンを放出することが示されています。細胞質に出現したドーパミンはモノアミン酸化酵素(※)で酸化されて、酸化ストレスを助長します。

※モノアミン酸化酵素とは脳内のドーパミンを分解する酵素であり、本来はシナプス間隙に放出されたドーパミンを分解する物質です。このモノアミン酸化酵素を阻害することで、少ないドーパミンを有効に活用しようというのが、「パーキンソン病の歴史と背景」で紹介したMAO-B阻害薬です。ドーパミンが細胞質に放出されることで酸化が強まり、細胞の破壊を進めると考えられます。

α-シヌクレインの毒素は酸化を増強して間接的にミトコンドリアを障害しますが、直接的にもミトコンドリアの膜を破壊してシトクロムCという物質を遊離させます。シトクロムCはアポトーシス誘発物質とされています。アポトーシスとは細胞に問題があった時などに細胞自らを破壊する機序です。これにより障害がさらに加速されると考えられます。また、α-シヌクレインの凝集により発生される毒素は、凝集した蛋白質を除去するシステムをも破壊することがわかっています。

このように多くの悪循環がパーキンソン病の進行を広げていくと考えられます。

MPTPという神経毒素

1980年代前半、北カリフォルニアの学生たちが不法に麻薬を合成、乱用していたのですが、それに不純物が混じっていて、学生たちにパーキンソン症状が出現しました。学生たちの死後の剖検では黒質線条体線維の減少が発見されました1)。ウィリアム・ラングストンはその原因がMPTP(メチルフェニルテトラヒドロピリジン)という物質であることを明らかにしました。

MPTPは脳内でモノアミン酸化酵素によりMPP⁺という神経毒に変わります。それがドーパミンニューロンに入り込み、ミトコンドリアを障害するという機序がわかっています。

しかし、MPTPは試験管内で人工的に合成された物質であり、これ自体はパーキンソン病の原因にはなりません。自然界あるいは食品などに含まれるMPTP類似物質が関与しているのでないかと考えられていますが、その発見には至っていません。

また、MPTPによる障害ではレビー小体は出現せずに、パーキンソン病よりも進行が急性で振戦が極めて少ないとされています2)。他にも「パーキンソン病の病態概論」で紹介したブラークらの仮説では、中脳黒質に先行して延髄の迷走神経背側核や嗅球に病変が出現するとされていて、そのあたりとの整合もこの仮説の課題のように思います。

遺伝性パーキンソン病からの知見

孤発性と比べて遺伝性パーキンソン病は発症数が少ないのですが(全体の5%ほど)、どのような遺伝子が問題となっているのか、こちらも研究が進んでいます。その研究が孤発性の原因や病因プロセスの手掛かりになっています。遺伝性パーキンソン病はそのタイプによって「PARK○(〇には数字が入る)」と表現されます。

遺伝性パーキンソン病は、現在まで18の遺伝性病型が報告されており、原因遺伝子は10発見されています2)。ただし、文献によって病型と原因遺伝子数は微妙に違うので、その解釈は研究者(もちろん発表時期)によって多少、変わってくるのではないかと思っています。今回はいくつかある病型から、よく研究が進んでいるPARK1、2、4について紹介します。

例えばPARK1、4の遺伝性パーキンソン病は、α-シヌクレインに関与する遺伝子に問題があることで発症します。PARK4ではα-シヌクレインを含む染色体領域の三重複によって起こることがわかっています。これはα-シヌクレインが遺伝子量で2倍になるとPARK4パーキンソン病を発症することを意味していて、これは孤発性パーキンソン病がα-シヌクレインの蓄積によって起こる可能性も強く支持しています3)

PARK2は40歳以下で発症することが多く、AR-JP(常染色体性劣勢パーキンソニズム、あるいは若年性パーキンソニズム)と報告している文献も多くあります。

PARK2で問題となるのは「パーキン」という蛋白質です。少し前の部分で蛋白質が正常に働くためには「フォールディング」という折りたたむ過程が必要とお話ししました。このパーキンもフォールディングに関係する物質で、具体的にはパエル受容体という物質のミスフォールド(上手く折りたたむことが出来なかった不良品)を除去することに関与します。パーキンが異常を起こすことで、ミスフォールドのパエル受容体が異常に蓄積します。ドーパミンニューロンはこのパエル受容体に特別に弱いらしく、その細胞の中に取り込まれ、蓄積することで細胞死を引き起こします。これがPARK2の遺伝性パーキンソン病の基本的なプロセスです。

このPARK2から示唆されるのは、ミスフォールドされた蛋白質の蓄積がパーキンソン様の症状を引き起こすのではないかという可能性です。PARK1、4の知見と合わせて遺伝性の病因を分析すると、孤発性パーキンソン病はα-シヌクレインのミスフォールドによる蓄積が病理プロセスにおいて重要ではないかと裏付けられます。

それ以外の観点からの知見

パーキンソン病の原因についてそれ以外の観点からの研究も進んでいます。

農薬、殺虫剤

まず、殺虫剤、殺鼠剤、除草剤への暴露はパーキンソン病のリスクを高めると昔から指摘されていました。必然的に農業従事者で高くなり、15歳以前の農村での生活はリスクを高めるとされています。さらに井戸水の使用もリスクを上げるとされています。井戸水に関してはその成分において殺鼠剤や殺虫剤の濃度を測り、70~90%程度はその混在により説明できるとする報告もあります2)

パラコート(除草剤)やロテノン(植物由来の化合物で農薬や殺虫剤に用いられる)は、ミトコンドリアの機能障害を起こし、実験的パーキンソン病の作成に使用されるほどです。これらの成分を含む薬剤は発症のリスクを高めます2)

金属

パーキンソン病の中脳黒質では鉄の上昇が知られています。銅や鉄などの金属は活性酸素の産生を触媒するので、パーキンソン病の病態との関連も指摘されています。食事時のそれら金属類の摂取量について、パーキンソン病と対照群で比較した研究があります。そこからは、鉄、マグネシウム、亜鉛の摂取は高くなるほどパーキンソン病のリスクが下がり、銅とマグネシウムの摂取はリスクに影響しなかったとの結果が出ています2)

喫煙、コーヒー、ワイン

喫煙については、パーキンソン病の予防因子になるという報告の方が、ならないという報告よりも圧倒的に多くなっています。メカニズムとしては、パーキンソン病は黒質のドーパミン作動性ニューロンの変性が運動症状の大きな問題になりますが、黒質の神経細胞はニコチン性受容体を有しています。そのため、ニコチンにより活性化されてドーパミンの放出が促進されることで、パーキンソン病の症状が緩和されると考えられます。反面、同じ大脳基底核疾患でもパーキンソン病と相反する症状を示す舞踏病では喫煙が症状を憎悪させることがあります1)

コーヒーについては、パーキンソン病のリスクを減らすことを示唆させる報告が見られますが、そのメカニズムについてはわかっていません。カフェインを適量摂取することで症状の緩和や予防の効果があるのではないかと研究が進んでいます。

ワインについては、白ワインにパーキンソン症状を抑制する1-MeT1Qという物質が含まれています1)。また、赤ワインに多く含まれるポリフェノールがα-シヌクレインの分解作用があるという指摘もあります。どちらも定説と言われるほど報告はありませんが、今後解明が進むかもしれません。

血液成分

血清尿酸値が高いと男女ともにパーキンソン病のリスクが高まるという報告があります。一方で男性ではリスクが高まるが、女性には影響しないとの報告もあります。また、高血圧、高コレステロール血症、糖尿病はそれぞれパーキンソン病の予防因子になるとの報告もあります2)

まとめ

ここまで様々な角度からパーキンソン病の原因、病理プロセスについて書きました。パーキンソン病にはレビー小体の存在があり、レビー小体とはミスフォールドのα-シヌクレインが多く凝集したものです。そしてパーキンソン病の脳では活性酸素の増加とミトコンドリア異常が見られています。α-シヌクレイン、活性酸素、ミトコンドリア異常、それらは全てサイクルのように関連し合って障害を憎悪させていきます。つまりどれが一番最初に起こっているのか解明するのはなかなか難しい問題です。

さらにα-シヌクレインの凝集、活性酸素の増加、ミトコンドリア異常の、さらに前のプロセス、つまり病気の発端は何なのかという問題も解明が待たれます。

現在、パーキンソン病の原因は遺伝的要因と環境的要因の2つが重なって発症すると考えられています。遺伝性パーキンソン病であれば、もともとパーキンソン病になりやすい体質に、環境的要因が加わることで発症します。この場合の環境的要因とは、単純な生活環境も指しますが、何らかの毒素や生活習慣も含んだ、それらが複合した要因です。孤発性パーキンソン病の場合はそれと反対で、環境的要因が大きく、そこに体質的な要素が加わることで発症すると考えられています。

主な参考・引用文献
1)中野隆(編著)「機能解剖で斬る神経系疾患」メディカルプレス.2011
2)水野美邦「パーキンソン病の診かた、治療の進めかた」中外医学社.2012
3)高橋良輔「遺伝子から探るパーキンソン病の分子病態」老年期認知症研究会ホームページより
4)山永裕明、野尻晋一「図説 パーキンソン病の理解とリハビリテーション」三輪書店.2010