パーキンソン病のメカニズムとリハビリ ①(はじめに)

パーキンソン病

私が理学療法士の養成校を卒業して最初に就職した病院は、神経内科の患者様が多く、中でも特徴的だったのが神経難病専門の病棟が2つあったことでした。そこにはALS(筋萎縮性側索硬化症)、多系統萎縮症、脊髄小脳変性症、多発性硬化症、ハンチントン舞踏病など神経難病の方々が入院されていました。有病率がとても少ない(例えばALSは10万人におよそ3~5人 ※1)と言われる神経難病の方が病床を埋めている光景はとても不思議な感覚でした。

その病院を辞めた後は身体障害者療護施設に就職しました。そこには筋ジストロフィーや先天性疾患の方も多く療養されていました。

現在は老人施設でのリハビリが主な仕事です。そこでもパーキンソン病、レビー小体型認知症、ALS、ハンチントン舞踏病など神経難病の方が多く入居されています。

振り返ると自分のセラピストとしての歩みは、多くが神経難病と関わってきたように思います。基本的に進行していく疾患なのでリハビリにおいても考えることが多いのですが、その中でも特に頭を悩ませるのがパーキンソン病でした。

その理由はいくつかあると思います。神経難病の中でも比較的患者数が多いことや、寿命が長く運動できる期間が長いこともその理由でしょう。長い期間携わることで、セラピストとしての無力さや無知をより多く感じさせられます。

なぜ、あのような腰から90度曲がったような姿勢をとらないといけないのか? なぜ左右片方にあれほど傾くのか? パーキンソン病の姿勢障害はきわめて非合理的に見えます。徒手的に矯正しようとすると強い抵抗があります。まるで身体がその姿勢を選択しているようにすら感じます。

すくみ足や小刻み歩行はなぜ起こるのか? どうして床に線を提示すると歩きやすくなるのか? 口から唾液をこぼすのはなぜか? なぜ同じパーキンソン病でも症状が違うのか?

学生時代、パーキンソン病は中脳黒質の変性と習いましたが、それがどのように臨床の症状と結びついているのか?

私が関わっている人々は多くが症状が進行して、介護なしで生活できない状態です。そのような人々の症状はとても深刻で、それを目の当たりにすると、疑問はますます強く深まっていきます。

答えを出さなくても、リハビリを行うことはできます。運動量を保つこと、関節の動きを保つことなど、多くの人に共通する要素があり、それを行うことでリハビリの体をなすことはできます。しかし、経験年数を重ねるごとに、病気の本質を知りたいという欲求はますます強くなっていきました。

そのような思いに駆られて、どこかに求める答えが書いていないか、色々と調べたこともあります。しかし、この濃い霧を晴らすような文献や書籍には出会うことができませんでした。

病気の本質を知るには、病理を理解する必要があります。そして、それを書いているのは多くが医師です。今考えると、私にとってその記述は難解過ぎたり、多岐に渡り過ぎていたり、臨床との結びつきを見出せなかったりして、自分の中に上手く取り入れられなかったのだと思います。セラピスト向けに病理の知識をまとめたものがあれば良いのにと、調べながら漠然と感じていたことを思い出します。

それから時間が経ち、臨床での経験を積み、以前には理解できなかった記述もいくらか理解できるようになりました。そうすると今度は、次第にパーキンソン病の概論について、まとめたい気持ちが湧いてきました。それはかつて自分が知りたいと思っていた情報そのものでした。

これから書くいくつかの記事はリハビリの視点からパーキンソン病をまとめたものです。難解になりがちな病理についても精髄を残しつつ、わかりやすく書くように心がけました。書籍の多くの記述から必要な内容を選ぶ過程には、私の臨床経験が深く影響していて、それは紛れもなくセラピストの視点だと思います。

病気について知識を深めても、外観上、行っているリハビリの内容は変わらないかもしれません。しかし病気の本質を知っているかそうでないかで、患者様や自分に与える何かが微細であっても変化するのではないかと思います。

すでに本に書かれている内容をまとめたものなので、ひとつひとつに新しい知見はありません。しかし、ある視点から情報を整理することで、そこに新しい意義が見い出されることもあるでしょう。

この作業自体が私自身のステップアップの貴重な機会になりますが、同時に記事によって、私と同じような悩みを持つ人の、何かの役に立てれば嬉しいです。

※1 参考文献1)p629より

参考文献
1)細田多穂、柳澤健(編「理学療法ハンドブック 改訂第4版 第3巻 疾患別・理学療法基本プログラム」協同医書出版社.2010