動画系解剖学教材 おすすめ集

おすすめの書籍・教材

解剖学の教材には、動画を用いたものもあります。動画の長所は、実際にメスで切開したり、ピンセットでつまんだ様子で質感が伝わってくる点や、様々な角度から映すことで、立体的な位置関係が理解しやすい点などがあります。値段が高いことや、書籍と比べて見るのに手間がかかるなど短所もありますが、有効に活用すると書籍とは違った効用があると思います。

今回は動画系の解剖学教材について、私が実際に視聴した感想も含めて紹介したいと思います。

機能解剖マニュアル(DVDまたはVHS)

もともとはアメリカの出版社「Lippincott Williams & Wilkins」が発売したビデオシリーズ「Atlas of Human Anatomy」が原形です。それをジャパンライム社が版権を得て、日本語訳したものが「機能解剖マニュアル」です。

DVDは全10巻で構成されており、①上肢(130分)、② 下肢1(75分)、③下肢2(74分)、④体幹1(74分)、⑤体幹2(75分)、⑥頭頸部1(105分)、⑦頭頸部2(121分)、⑧口腔/眼/耳(97分)、⑨胸部の臓器/生殖器(75分)、⑩腹部の臓器(87分)となっています。

映像は外科医であり臨床解剖学者でもあるRobert D. Acland(1941-2016)の解説で進んでいきます。組織を回転させながら描写する手法はAclandが開発した撮影法で、位置関係や立体的イメージを理解させる上で大きく役立っています。

検体の状態も新鮮さを幾分か保っていて見やすいと思います。乾燥しすぎた検体だと質感がわかりにくいですが、この映像では新鮮例とは言えませんが、ある程度質感を保っていると思います。

主要な筋肉についてはそれぞれ丁寧に解説していて、セラピストや治療家だけでなく、学生が勉強する上でも受け入れやすいと思います。筋骨格だけでなく血管、靱帯、神経もフォローしていますし、脂肪層や膜もよく見えますので、質感や立体的イメージを学ぶのに良い補助になると思います。

例えば、黄色靱帯は黄色い組織の映像を実際に見せて解説しています。血管、神経を細い棒で軽く引っ張る映像もあります。血管も神経もわずかな伸縮性があり、そこからは組織の質感を感じ取ることができます。そのような映像から得た知識は学習者の記憶によく残るでしょう。

肩甲下筋と広背筋。主要な骨格筋については各々、走行・作用などを解説している。(引用:機能解剖マニュアル 上肢」)

前縦靱帯と腹側筋膜。骨格筋以外も多くフォローしていて貴重な映像を見ることができる。(引用:機能解剖マニュアル 体幹1、2」)

品質だけで言えば、間違いなく強くお勧めできる教材なのですが、唯一の難点はその価格で、全10巻揃えようとすると定価で20万円ほどしました。「しました」というのは、最近まで取り扱っていたのですが、現在ジャパンライムの公式ホームページで取り扱っておらず、あるいは絶版となったのかもしれません。

オークションで中古を購入しようとしても、全巻で10万円ほどが相場なようでかなりの高額です。手が届かないけどどうしても見たい場合は、国立の医科大学の図書館に置いてあるところがあり、そこで閲覧させてもらうのも手段だと思います。

また、このシリーズは以前にVHSで販売されており、そちらも時々オークションで出てきます。おそらくビデオデッキと購入して合わせても、DVDを購入するより安価で手に入ると思います。ビデオデッキを扱う手間はかかりますが、そのような方法もあります。

Integral Anatomy Series(DVD)

当DVDのプロデューサーであるGil Hedley博士は、シカゴ大学神学校で神学倫理学の博士号を取得し、90年代初期に公認ロルファーを取得したと本人のホームページに書かれています。DVDは全4巻で次のような構成になっています。映像は実習室での解剖がメインで、それにGil Hedleyによる解説が時々加えられています。日本語版はなく英語版のみです。

vol.1 Skin and Superficial Fascia
vol.2 Deep Fascia and Muscle
vol.3 Cranial and Visceral Fascia
vol.4 Viscera and their Fascia

vol.1 Skin and Superficial Fascia(皮膚と浅筋膜)
このvol.1では、皮膚を切開して皮下にある脂肪組織や浅筋膜などを見せてくれます。腹部や下腿にメスを入れると、浅筋膜の網の目状の組織がはっきり見えて、その下の透き通ったシルクのような深筋膜が姿を現します。まるで服を脱がすかのように皮膚をめくり、続いて浅筋膜など皮下組織をめくり、深筋膜に覆われた姿があらわになるところまで解剖が進みます。

vol.2 Deep Fascia and Muscle(深筋膜と筋肉)
前回、浅筋膜を取り除いた検体からさらに深筋膜を剥がして筋肉を表出させます。丁寧な作業で深筋膜を摘出することで、その頑強な質感が伝わってきます。筋肉は頚部、背部、腹部、前腕、手部、殿部、大腿、足部(順番は映像と不同)など各部の解剖を見せてくれます。部位ごとに写る検体が違うのか、ところどころ組織の新鮮度が違って、その映像の質に差があるように思います。新鮮例の解剖については、やはり質感をイメージする上で大きな参考になります。個人的には手関節の屈筋支帯と腱群、大腿~膝窩部(ハムストリングスをかき分けて坐骨神経まで摘出)、殿部の外旋筋群あたりが参考になりました。筋肉を剥がして全身が骨格になるところまで解剖が進みます。

vol.3 Cranial and Visceral Fascia(頭蓋と内臓の膜)
この巻ではvol.1、2で触れなかった頭蓋と内臓の膜がテーマです。露出させた胸郭から肋間筋を切除するところから解剖が始まり、胸郭、肺、腹腔(小腸、大腸、肝臓、大網など)、胃、心臓の順に表出が進みます。途中、側腹部から大腰筋を見せてくれる場面があり、その太い筋腹を確認することができます。続いて頭蓋部にメスを移し、頭蓋骨の下の膜組織を解剖していきます。硬膜から大脳鎌への移行部、大脳鎌、小脳テントの交差部(直静脈洞付近)、小脳の断面図、硬膜、クモ膜、脊髄、馬尾などを見せてくれます。

vol.4 Viscera and their Fascia(内臓およびそれらの膜)
このvol.4では新鮮例の皮下(脂肪組織)にメスを入れるところから始まり、腹腔内、胸郭内の解剖へと進んでいきます。vol.3に比べると、各々の臓器を丁寧に表出して見せていることと、新鮮例の映像が多く、その質感のイメージにおいても大きく役に立つでしょう。内臓と内臓を引っ張るような場面があり、そこからは膜の強固さというものがよく伝わると思います。

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全体的に見て、各部について均等に収録しているわけでなく、質が高い映像の部位もあれば、それほどでもない部位もあります。位置関係を提示するというより、組織の質感を伝えることを重視した感があります。複数の検体が映っていて、新鮮例の映像は特に参考になります。
英語のリスニングができればより有効に活用できると思いますが、映像だけでも学ぶところは多いと思います。解剖学アトラスを見ながら、映像を確認していくと密度の濃い勉強になると思います。

「機能解剖マニュアル」と違い、局所の詳しい解剖を提示するわけではありませんが、人体の層や組織の質感を知る上で良い教材だと思います。

モーション解剖アトラス(DVD付き書籍)

本シリーズは、上肢・体幹(2008年6月出版)、下肢・骨盤(2009年10月出版)、脊椎(2010年10月出版)の3冊があります。出版元であるメジカルビュー社のホームページによれば、札幌医科大学第二解剖学教室で製作された「新鮮解剖体を用いたバーチュアル解剖アトラス」をDVDに収録、付属して書籍化したものです。

新鮮な検体の筋・関節を剖出しただけでなく、それを実際に動かした映像を収録しています。セラピストや治療家からすると、普段自分が行っている運動に対して、組織がどう伸張、収縮しているのか確かめることができます。

解剖学や運動学を学ぶことで、運動時の組織の動きを想像できるようになりますが、剖出した関節や筋肉の動きを見ることで、それを実際に確かめることができます。自分が想像していた動きと同じなのかそうでないのか、確かめることは大きな学びとなるでしょう。ポジションの微妙な変化で筋肉の伸張がどのように変化するのか? 主動作筋以外の組織はどのように動いているのか? 紙面では表現しきれない映像ならではの気付きもあります。

【引用】左:モーション解剖アトラス(上肢・体幹)p22-23 右:同(下肢・骨盤)p38-39

書籍のコンセプトはとても素晴らしいですが、いくつか気になる点があります。ひとつは新鮮例の解剖だけに組織の境界は必ずしも明瞭ではありません。位置関係を知るための解剖学アトラスは別に必要になると思います。二つめは動画の量がもう少し欲しいと思いました。同じ部位でも動き、層、角度など色々なバリエーションの映像を揃えてくれればもっと良かったと思います。見たい映像の傾向は人それぞれなので、それが必ずしも収録されているか懸念があります。三つめはそれらを考慮した上で1冊25000円(税別)は価格設定が少し高いように思います。

それら気になる点はありますが、このようなコンセプトの類書は他になく、解剖学や運動学の補助として魅力的な教材だと思います。購入を迷うようなら、国立の医科大学の図書館には所蔵しているところもありますので、視聴して検討すると良いでしょう。