どうしても脊椎の触診が上手くできない人のために

脊椎

徒手療法を学ぶ人にとって脊椎の触診は必須です。あらゆる徒手療法で脊椎を無視しているものはありません。運動においては、たとえ上肢単独に見える動きであっても脊椎は動いていますし、そこには関連があります。

運動神経、感覚神経、交感神経は脊椎の中を走行しますし、副交感神経も骨盤内臓神経は脊椎を通ります。脊椎が障害されると、それらが支配する領域や臓器にまで影響することは、容易に想像がつくと思います。

しかし、四肢と違って動きが見えにくく、筋肉に囲まれているので、脊椎の触診が苦手という人は多いのではないでしょうか?

私はオステオパシーを学び始めて3年ほどになります。2ヵ月目に横突起の触診を教えてもらいましたが、実はそれが3年経っても習得できていません。

脊椎の触診はそれだけ難しい課題だと思います。しかし、これも練習次第で上手くなるものだと言えます。私自身、自信を持って「できた」とは言えませんが、先生にアドバイスを求めたり、臨床で試行錯誤したりして、上達していることは実感しています。脊椎の触診を体得し、その動きを正確に自分の身体で感じられるようになると、治療の効果はだいぶ変わるのではないかと思います。

名人と呼ばれるくらい、自由自在に脊柱を扱えたら、治療がもっと楽しくなるかもしれませんが、それは「できない」「できる」のふたつの対極があるだけではなくて、その間に段階がたくさんあります。

脊柱の徒手療法を行う上で最初で行うであろう棘突起の触診にしても、段階を踏んでより分かるようになります。もし、技術の向上を感じたとすれば、それはその部分の触診だけでなく、全体のスキルが上がっているはずです。

横突起の触診を目指していると、その前段階である棘突起の触診はだいぶ難易度が下がって感じます。以前は棘突起を識別するのも苦労していたのですが、やはり学習の効用でしょう。

ここでは、徒手療法を行う上で必須とも言える脊椎について、最初の段階である棘突起、横突起の触診の方法から、その運動を感じるところまで、私の経験をもとに学習のポイントを書きたいと思います。

棘突起の形状と基本的な触診

脊椎の触診で難しいのは、ひとつひとつの部分が四肢に比べると小さく、しかも多くの部分が筋肉に包まれているところにあります。

まず、脊椎の位置を知るには棘突起をしっかり触診する必要があります。背中の真ん中ほどに手を当てれば、棘突起を触ることは簡単ですが、その椎体ごとに識別しようとすると、上下を間違えることがあります。

椎体によって棘突起の形状は違うので、まずそれを頭に入れておくと、触診の時に識別しやすいと思います。

【写真】(上)第3胸椎~第8胸椎(中)第8胸椎~第2腰椎(下)第12胸椎~第5腰椎

写真を見ていただくと、形状の違いがはっきりわかると思います。第5~8胸椎の棘突起は鷲のくちばしのように、下方に弯曲して尖った形をしています。第1~4腰椎は先端が胸椎に比べると平坦になっています。このように脊椎の高位によって触れる感触は変わってきます。

触診や動きを感じるには、立体的なイメージを持つことが大切で、脊椎模型は勉強に必須だと思います。教科書も良いですが、図ではわかりにくい部分もあり、そのような意味で脊椎模型は重宝します。

上前腸骨棘、上後腸骨棘など、突起部の触診は下から触るのが基本です。

棘突起においても胸椎、腰椎は下から触ります。頚椎についても、棘突起の下端に触れる点は一緒なのですが、筋肉に厚く覆われていること、上下の間隔が狭いこと、一部形状が独特なことなどから、その頚椎ごとに当て方を少し変えます。

私個人の感覚ですが、第2頚椎ですと小さなボタンが筋肉に囲まれて少し後ろに突き出ているような感覚で、あまり下から触るという意識はありません。真後ろから探す感覚です。

第7頚椎になると上位に比べるとかなり表層に出てきていますので、そこから、その上にある第6頚椎を探します。

第3~5頚椎ですと深く筋肉に覆われているため、筋肉を介して中にある棘突起間の凹凸を知るような感覚です。練習であれば、第2頚椎と第6頚椎をまず探して、その間の空間を3等分して、だいたいの位置をイメージしてから触ります。

第3~7頚椎についてはその構造上、ひとつひとつの棘突起を触る時に下から触れる意識はしないですが、頚椎も指を滑らせて確認するなら、下から滑らせた方が棘突起の凹凸はわかりやすいと思います。

筋肉に覆われた骨指標を触るのは、慣れないうちは難しく感じるかもしれません。感覚の例をあげると、紙を何枚も重ねて、その下に10円玉を置きます。紙を優しくなぞると10円玉の部分の小さな凹凸が感じられると思います。筋肉の下の突起に関してもそのように感じることができます。優しく圧をかけることがポイントです。強いとかえって感覚を認識できません。慣れてくると適した圧が自然に選択できるようになります。

どの指で触っても良いのですが、棘突起を触れる時は母指、示指、中指が多いように思います。上の写真は中指を上に滑らせるようにして、棘突起の下端に触れています。

母指での触診の写真です。棘突起の下端に触れる点は、中指での触診と一緒です。

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基本的に棘突起の高位は、上または下から順番にたどって確かめます。高位については人に伝える必要がある場合や、神経学的あるいは関連痛的な検査している場合などに、しっかり把握できた方が良いと思います。

しかし、実際の臨床でその都度、一番上(または下)から順番に確かめるのは効率的ではありません。ここでは位置の指標になる特徴的な棘突起の触診を、実際の患者さんを触れている写真で説明します。

第2頚椎の棘突起の触診

上から順番にたどる時に、どこが一番上なのか把握することがまず最初に必要なことです。頚椎はそれほど大きくない上に筋肉に覆われているので、触りやすい骨指標を正確に触診することが大切です。

第1頚椎は後結節が小さく(第1頚椎の場合は棘突起とは呼ばずに後結節と呼びます)、後頭骨と第2頚椎棘突起の間にくぼんだような位置にあります。そのため、後頭骨を下にたどって最初に触れる骨指標は第2頚椎の棘突起と言われています。

第1、2頚椎を上位頚椎、第3~7頚椎を下位頚椎と分類しますが、それはその独特な骨の形状だけでなく、筋肉の配置的にも第2頚椎を境にしています。

【引用:「骨格筋の形と触察法」大峰閣 p90】

写真を見ると、頚部深層の筋肉が第2頚椎を境にして上下に分岐している様子が伝わると思います。もちろん、第2頚椎をまたぐ筋肉もありますが、深層の筋肉においては上からは大後頭直筋、下頭斜筋が第2頚椎棘突起を起始にして、
下からは、頚棘筋、胸棘筋、頚半棘筋、多裂筋が同部を上端の停止にしています。

第2頚椎棘突起の触診は、後頭隆起から真下に下がり、一番はじめに感じる突起部だとされています。

私の場合は、示指と中指で軽く撫でるように触れて、グリグリした小さく丸い突起部を感じます。深層の筋肉が周囲を囲んで、突起部だけが他の部分に比べて固く感じるのだと思います。

第7頚椎の棘突起の触診

頚椎と胸椎の大きな違いは、胸椎は肋骨が付着して大きく動きが制限されるのに対して、頚椎はそのような制約がありません。第7頚椎は下が胸椎なので、第7頚椎と下では動きがだいぶ変わります。それを利用して第7頚椎の棘突起を判別します。


第7頚椎と思われる棘突起と第1胸椎と思われる棘突起を左右の母指で触れて頚部を回旋してもらいます。次にひとつずつ母指を下位にずらして、同じように回旋してもらいます。第7頚椎-第1胸椎間の動きと第1胸椎-第2胸椎間では、前者の方が大きく上位の椎体が動きます。またエンドフィールも異なります。

練習するのであれば、その両方の動きの違いを確かめて感触をつかむと良いと思います。慣れてくると、指をずらさなくても伝わってくる動きの感触で第7頚椎なのか第1胸椎なのか、なんとなくわかるようになります。

第12胸椎の棘突起の触診

第12胸椎を正確に触診できると、下部胸椎から中部胸椎の高位を確認する上で効率が良くなります。胸椎には肋骨が付着していますので、一番下の肋骨をたどっていけば第12胸椎にたどりつきます。

肋骨も棘突起と同様に下縁に触れるようにして触診します。第12肋骨の下縁を中心方向にたどると、第11胸椎の棘突起と第12胸椎の棘突起の間ほどにたどり着くので、第12胸椎の棘突起であれば、そこの下の突起と覚えておくと良いでしょう。


肋骨の下縁を確認して、肋骨の走行のイメージに沿って正中方向に指を動かし、そこでまた肋骨の下縁を確認して・・・・・・というように繰り返して中心方向にたどっていきます。

写真では母指で触診していますが他の指でも可能です。肋骨は人によってはとてもくすぐったく感じるので、示指や中指は一本で触るのではなく、何本か揃えて触診した方が患者様にとってやさしいと思います。

第12肋骨は表層を厚い脊柱起立筋で覆われていて、その触診は簡単ではありません。実技練習が必要なのはもちろんですが、他の部位と同様に組織のイメージを持つことが大切です。

私は最初、「浮遊肋」と呼ばれるように、第11肋骨と12肋骨は前部で胸骨と付着していない分、グラグラしているイメージを持っていたのですが、実際には上の肋骨と強固に連結していて安定した組織です。また、いくつかの骨格標本を見てもらえるとわかるのですが、長さ、走行の方向などその形状に個人差が大きいです。

どの人にも共通しているのは、第11肋骨と12肋骨は前方は連結せずに骨の断端があるということです。触ることに慣れないうちは、まずこの断端を触って、そこからたどるようにしましょう。自分の身体で練習することもできます。胸郭の左右に手を当てて、下にずらしていくと胸郭の下端に行き着きます。胸郭の下端のすぐ下を後ろにたどっていくと、第11肋骨の断端にあたります。その少し下をさらに後方にたどっていくと第12肋骨の断端がどこかにあります。

前述の通り、この2つの浮遊肋は形状に個人差が大きいです。胸郭の下端と見分けが付かないくらい第11肋骨がすぐ下にある場合や、第11肋骨と12肋骨の距離も、近いものから大きく離れたものまで様々です。前方に弯曲している長い肋骨もあれば、横突起に少し付いただけの短い肋骨もあります。

形状の違いは触診に迷いを生じさせますが、私個人の経験から言えば、浮遊肋の断端の感触をつかむと、肋骨の位置関係がわかりやすくなり、実技練習の効果やそれにともなう触診の精度が高くなっていきます。

第5腰椎の棘突起の触診

下から脊椎の順番をたどる時、まず一番下位にある第5腰椎の棘突起を触診するところから始めます。下位腰椎も周囲を厚い筋肉に覆われていますので、その高位の判断を誤る時があります。慣れないうちの実技練習では、被検者に腹臥位になってもらった方が筋肉が緩んで触りやすいと思います。

第5腰椎の棘突起を触れる方法はいくつかあります。

① まず、上後腸骨棘(PSIS:posterior superior iliac spine)を触診します。棘突起のところでも話しましたが、下から突起部を触れるようにします。骨指標の触診では左右違う部分を触れることもよくありがちですが、下端は突起していて指に引っかかる感触があり、そのような間違いも減ると思います。


上後腸骨棘から内側に指を滑らせると中間仙骨稜(棘突起の痕である正中仙骨稜の脇の部分)に指が当たります。中間仙骨稜をさらに上に指を移動させると、仙骨と第5腰椎の間のしっかりしたくぼみ(Aの部分)があります。そのくぼみの上の突起部が第5腰椎の棘突起です。


② もう一つの方法は、上後腸骨棘を確認して左右のそれを結びます。それぞれの腸骨棘から中心部に向かって30度の線を引きます。その交点が第5腰椎の棘突起の目安になります。


私の場合はどちらかの方法で触診して、自信がない時は①②の両方で確認するようにしています。

骨指標と棘突起の位置関係

その他、骨指標から脊椎の高さの目安を測ることができます。骨指標自体にズレがある場合や、個人差も見られるので、あくまで目安にしてください。

【引用:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系 第2版】

肩甲棘→第3胸椎棘突起
肩甲骨下角→第7胸椎棘突起
左右腸骨稜の最も高位→第4腰椎棘突起

左右腸骨稜の最も高い位置を結んだ線はヤコビー線(Jacoby line)とも呼ばれます。私が学生時代に学んだ時には第4-5棘突起間を通過すると教えられましたが、実際に臨床で触診してみると、プロメテウス解剖学アトラスの記載のように第4腰椎の棘突起か、第3-4棘突起間を通過しているように感じます。腸骨稜は男女で高さも違うので、私の意見としては女性が第4腰椎の棘突起、男性が第3-4棘突起間ほどで認識しています。

横突起の形状

棘突起ほどではありませんが、横突起も徒手療法で触診を求められる部位です。横突起を正確に触診できると、脊椎の機能障害を評価する上で役立ちます。

前述しましたが、私は3年かけて練習しても横突起の触診に自信が持てません。特に胸椎と腰椎は厚い脊柱起立筋があるので、横突起は多くが埋没し、触診することが難しく感じます。頚椎も筋肉に覆われている点では一緒なのですが、背臥位で頭部を保持しながら触診すると筋肉も緩みやすく、胸椎や腰椎に比べると感じやすいと思います。

ここでは胸椎と腰椎の横突起の触診について書いていきます。

腰椎の横突起は、現在は「肋骨突起」と呼ばれることも多いです。腰椎の横突起はもとをたどると多くの部分が肋骨の名残であり、退化した副突起や乳頭突起がもともとの横突起だと考えられています。このブログでは肋骨突起とは呼ばずに腰椎も横突起という表記で統一しています。

技術を向上させるには、棘突起と同じく、まず形状をよく知ることが必要です。骨格模型を見てもらうとよくわかりますが、横突起は棘突起の真横に出ているわけではありません。

胸椎の横突起はアルファベットのVのように左右斜め上に伸びています。写真にはありませんが、胸椎の横突起と肋骨は肋横突関節を形成します。つまり、肋骨の走行をたどれば横突起も見つけることができます。

腰椎の横突起は胸椎と違ってほぼ水平に伸びています。

特に中部胸椎から下部胸椎にかけては棘突起と横突起の間が離れています。腰椎においても胸椎ほどではありませんが高さに差があります。

同じ椎体の横突起は棘突起よりも高い位置にあると、頭に入れておくと良いでしょう

胸椎の棘突起と横突起の位置関係については、第1~3胸椎、第4~6胸椎、第7~9胸椎で分けて、下位の部分に行くほど棘突起-横突起間の距離(高さの差)が大きくなるとしている書籍もあります。しかし、私の持っている骨格模型では第6胸椎が最も棘突起ー横突起間の距離が大きかったです。形状は個人差もありますし、脊柱の弯曲(椎体の傾斜)によってもこの距離は変わってくるので、あまりこの内容については書籍を参考にはしていません。

ただし、第1~3胸椎に比べると第4~9胸椎では棘突起ー横突起間の距離は大きくなるのは確かだと思います。第10~12胸椎においてはまたその距離が近づいていきます。

第4~9胸椎あたりで棘突起のすぐ横やほんの少し上にあるような横突起は、もしかしたらひとつ下の椎体の横突起ではないか? と疑った方が良いと思います。

【写真:側面から見た棘突起と横突起の位置関係 左から第4腰椎、第11胸椎、第7胸椎、第2胸椎】

棘突起と横突起の位置関係をイメージする時、双方の高さを頭に入れておくことも大切です。写真は骨格模型をもとにして、棘突起と横突起の位置関係を示したものです。中部から下部胸椎においては横突起が比較的表層にあることがわかります。

脊柱の弯曲(椎体の傾斜)によってこの距離は変わりますのであくまで目安にしてください。

確実に言えるのは、肋骨が付着しているため、胸椎の横突起は肋骨の弯曲に合わせて後方に反り返った形状をしています。それをイメージしながら指を当てると良いでしょう。

横突起の触診

腰椎の横突起は、慣れないうちは筋肉の緊張が緩む腹臥位の方が触診しやすいと思います。まず、棘突起を確認しておおよその位置の目星をつけます。棘突起の脇を上下に指を動かして、深層の固い感触を確認しても良いと思います。繰り返しになりますが、大切なのは触診する組織をイメージすることです。

このような形で腰椎の横突起があるようにイメージします。大柄な男性であれば、少し大きめの腰椎をイメージして、小柄な女性や子供であれば小さめにイメージを調整します。


外側から中心方向に指を滑らせるように突起部に当てます。この際、母指に力を入れ過ぎると余計にわかりにくくなります。組織にピッタリ指を当てる感覚は必要ですが、圧自体は軽いもので十分です。

胸椎横突起の触診については、腰椎に比べると周囲の筋肉も厚くなく、後弯していて触りやすいので、座位で練習しても良いでしょう。腰椎と同様に、外側から中心部に向かって指を滑らせるように、横突起にコンタクトします。肋骨に沿った位置で、後方に少し反ったV字型の形状をイメージしてもらうと精度が高まると思います。

深層の組織を感じるための考えかた

脊椎の触診において難しく感じる原因はいくつか考えられます。横突起の触診のように厚い筋肉に覆われた組織を触ることも難易度を高めている要因のひとつだと思います。

人体の組織は表面から、皮膚、浅筋膜、血管、深筋膜、筋肉と深層にたどっていくことができます。筋肉においても例えば腰背部であるなら、腰背筋膜→脊柱起立筋(最長筋、腸肋筋)→多裂筋、回旋筋、横突間筋と、さらに深部にたどっていくことができます。このような浅層と深層を行き来して区別するような触診を「層触診」と呼びます。

この層触診も、徒手療法を行う上で必ずと言っていいほど求められるスキルです。

これは何も新しく特別なことをしているわけではありません。例えば、腕の骨を触るにもそこには皮膚や筋肉が間にあります。その時も組織を介して、骨の質感を感じているのであって、やっていることは変わりません。特殊に感じる内臓領域の治療も、この層触診により深層の内臓の質感を感じることが大切です。組織の質感がわかると、特別なことをしているわけではないと気付くと思います。

この深く組織に潜っていくような触診について、ある先生は片栗粉を大量に水に混ぜて固めたものに、ゆっくり圧をかけて沈み込むような感触と説明していました。強い圧をかけても反発があるのですが、静かにゆっくり圧をかけると沈み込んでいきます。その先生は実際にそれを使って感覚を磨いていたそうです。
ある先生は「バランスを取りながら入り込んでいく」と説明していました。オステオパシーで用いる中立法を使って、組織を緩めながら深部に入っていくということだと思います。

私も何人かの先生に教えてもらった内容を参考に、自分流に取り入れて触診をしています。ゆっくり圧をかけて沈み込むような感触を待つこともありますし、バランスを取りながら深層に入っていくような方法を用いることもあります。私の「バランスを取りながら」というのは、筋肉の緩まるポイントを探しながら、かき分けて深部に入っていくような感触で、もしかしたら先生が教えてくれたものとは違う感覚かもしれません。

何を感じているかはその人にしかわからないので、同じものを指しているようでも、異なるものを感じている可能性もあります。それでも、まずは自分なりの感触を得ていくことが大切に思います。それはいつかどこかで壁に突き当たるかもしれませんが、そこで新たに更新・構築していけば良いと思います。

前に例として書きましたが、紙を何枚も重ねて、その下に10円玉を置きます。紙を優しくなぞると10円玉の部分の小さな凹凸が感じられると思います。その組織に直接触れていなくても、間にある組織を通じて伝わってくる質感があります。骨であれば固さがあるのでわかりやすいと思います。骨以外の組織でもそれぞれ独特の質感があります。筋肉、内臓、膜、靱帯、神経など、それぞれの感触をつかむことが大切です。

学習や練習の方法については、後述の「触診力を高める学習法とは」で書きたいと思います。

脊椎の動きを感じるための考えかた

ここまでは静止している脊椎の触診について書きましたが、次は動きを感じる方法に移りたいと思います。脊椎の障害が多くの問題を生むことは、経験を積んだ治療家の方なら共感していただけると思います。その障害の多くは動きが減少している、あるいはなくなっているものだと思います。

実際の患者様では、脊椎全体が必ずしも問題を起こしているわけではなく、その中でも鍵となる椎体、椎間があります。その問題の部位を探し、治療するために触診の技術が必要なのですが、静止している組織に触れるだけでなく、動いているエンドフィール、質を感じて、さらに治療のためには動きをコントロールする必要があります。

動きを感じることは治療の効果にも大きな影響を及ぼします。動きを感じられないと、目標とする部位に適切に力を伝えることができません。やみくもに全ての関節を治療しようとしても、おそらく肝心な部位に治療を加えることができないでしょう。

四肢と違って脊椎は苦手という方も多いと思います。四肢と脊椎の大きな違いは、その動きが小さく見えにくいところにあります。肘や肩の動きが見えないと言う人はいないと思いますが、脊椎は上下合計24の椎体が細かく連動して動いています。そのひとつひとつの動きを目で判断することは非常に高い技術を要します。

この連動した動きが評価と治療を難しくします。動きが悪い問題の箇所を治療しようとしても、適切な固定が行われていないと、他の部位による代償が起こります。問題の部位にかけたはずの力が他の方向に逃げてしまいます。この代償を見極められないと効果的な治療はできません。それには動きをしっかり感じられる必要があります。

脊柱の動きを感じるのは、私の場合は身体全体で感じる感覚です。慣れてきた今だからこそ、手だけで触れたり、目だけでもいくらかわかるようになりましたが、基本は身体全体で感じるようにしています。
骨格模型が相手なので上手く表現できない部分もありますが、自分が脊柱の動きを確かめる時の姿勢の一例です。

患者様の右肩に術者の腋窩をかけて下方向に動かし右側屈を生み出します。側屈を作る時、肩で下に押すのではなく、体幹を回旋(写真の姿勢では右回旋)しながら後方に重心を移すようにして動かします。患者様の肩と術者の腋窩でつながって、お互いの脊柱が連動して動くような感覚です。胸椎の棘突起に当てた指は軽く引っかける程度でここには力は入れません。あくまで感覚を受け取る手(モニターハンド)として用います。写真でも身体を密着させている様子が伝わると思いますが、身体全体で小さな動きに耳を澄ませる感覚です。

この例はあくまで私が習ってきた方法をもとに説明していますが、それぞれ自分が習ってきた治療の中で、動きを感じられるように意識すると良いと思います。伝統的な手技療法であれば、その「型」には意味があります。効果が高いように淘汰されて残ってきた手法であり、そこには脊椎の動きを感じてコントロールするエッセンスが含まれているはずです。その型から学ぶものは多いはずです。

どのような技術でも同じですが、基本をしっかり習得すると様々な応用が可能になります。まず、教えられた「型」の中で脊椎の動きを感じられるようにしましょう。それを究めれば、いずれどのような姿勢でも脊椎の動きを感じられるようになるでしょう。

触診力を高める学習方法とは

「深層の組織を感じるための考えかた」「脊椎の動きを感じるための考えかた」と続きましたが、ここではそれらを習得するためにどのような学習方法をとれば良いのか、私の経験をもとに書きたいと思います。

学習法やそれに伴う上達は人それぞれ形がありますので、自分のスタイルをつかむことが大切です。その参考にしてもらえたら幸いです。

どの学習にも共通しますが、まず解剖や運動のイメージを持つことが何よりの前提だと思います。もし、手が組織の感覚を受け取っていたとしても、自分に知識がないとそれを解釈することができません。それは結果的に「わからない」という答えになってしまいます。

棘突起にしても横突起にしても、その形状を熟知することは触診の大きな助けになります。イメージがなく手探りで触っているのと、「このへんにこういう形である」という認識で触るのでは結果に大きな差が出ます。先入観もデメリットはあるのですが、少なくても知識がないよりは良いと思います。

その学習方法といえば、書籍、DVD、模型などで自習していくことが中心になると思います。私の場合は絵よりも写真や映像で見た方がイメージが持ちやすいので、もともと持っていた書籍に加えて、そのような教材を探しました。

アメリカの解剖教室のDVDがあって、それを層触診のイメージのために見ていました。テレビの前にじっと座っているのが苦手なので、食事の時なら座っていると思い、その時に欠かさず見るようにしていました。
解剖だと皮膚の下に黄色い脂肪組織、その下に膜、筋肉、内臓と組織の層を見られるので、立体的なイメージをつかむのに役立ちました。膜や内臓を実際に触れている映像を見ることで、その質感を感じることができるのもメリットでした。

いくつか自分が参考にした解剖学関連の教材を紹介します。

「Integral Anatomy Series」
上で紹介した解剖教室のDVDです。解説はもちろん英語ですが映像を見るだけでも勉強になると思います。

「解剖学カラーアトラス 第8版」
解剖学書では様々な良いものがありますが、私の場合は写真の方がイメージしやすいのでこれをよく見ます。図書館で第7版と比べたことがありますが、第8版の方が見やすく個人的にはおすすめです。

「関節内運動学―4D‐CTで解き明かす」
この書籍には3D・4D-CTという機器により人間の骨・関節運動を収録したDVDが付いています。脊椎の収録は一部に過ぎませんが、生きた人間の脊椎がどのように動いているのか参考になると思います。

「カラー版 カパンジー機能解剖学  III (3) 脊椎・体幹・頭部 原著第6版」
関節運動学の古典的名著と言えると思います。脊椎の細かい動きに触れた書籍が見当たらない中、カパンジーは踏み込んで解説してくれています。カパンジーを超える関節運動学書の登場が待たれます。

解剖や運動の知識を頭に入れると同時に、実際に身体を触り練習することも大切です。

一番良いのは優れた講師のもとで、フィードバックを受けながら触診の練習をすることです。セミナーの効用はこのようなところにもあります。もし職場の先輩でそのような人がいたら付き合ってもらっても良いでしょう。

そのような人がいなかったら、同僚を被検者に練習させてもらうのも良いと思います。医療従事者や治療家というのは一般人とは比べものにならないくらい、フィードバックを多くもたらします。そのような環境になかったら家族を相手に練習させてもらっても勉強になると思います。

臨床でも患者様に迷惑がかからないなら、治療に取り入れていくことが大事です。すぐに効果が出ないかもしれませんが、その経験を疑問に持つと、次にセミナーに参加した時や練習する時に得るものが大きくなります。

向上というのは疑問や課題を持ち、その答えを探しての繰り返しだと思います。どのような形でも疑問や課題を得るためのチャレンジをし続けることが成長の大切なステップです。

ここで問題となるのは、職場に練習相手になる同僚がいなかったり、患者層からして上手く習ったことを取り入れられないケースです。

私もかつて在宅のリハビリに携わっていて、その時はリハスタッフ1名で、利用者層も重症な高齢者が多い職場でした。重症な方は治療のための姿勢をとることも自由にならないので、習ったことをそのまま実践するには難しい環境でした。セミナーで「型」を習っても実践できなかったのです。

同じセミナーに通っている受講生の中には同じ職場で来ている人たちもいて、お互いで練習をしていると聞いて環境の差を感じました。整形外科などもっと適した職場があって、そのような場所に勤めていたら、習ったことをすぐに実践できて上達するのではないか、などとも当時は考えていました(それは間違いなく、そういう環境を選んでいた自分自身の責任なのですが)。

その中で工夫していたことは、その患者様に関連する触診のポイントをあらかじめ考えておき、治療の時に触らせてもらうというものでした。

私は横突起の触診ができなかったので、利用者様を座位や側臥位で治療する時には横突起を触らせてもらっていました。高齢者で重症な方が多かったので、中には極度に痩せた方もいて、そのような場合は特に骨が触りやすかったです。胸郭上口から触る第一肋骨の感触もこの時、はっきり感触をつかみ感激したのを覚えています。そのような中で覚えた感触はよく覚えているものです。

不利な環境だと思っていても、必ずしもそれだけではないのです。貪欲に何かをつかもうとすれば、得るものが出てくると思います。

治療についてはなかなか職場で実践できなかったので、マンションの一室を別に借りて、そこにベッドだけ置いて、昔の同僚を呼んで練習させてもらいました。大きな出費でしたが、自分の手技に対してフィードバックしてもらった経験は大きく、いくつかの手技を臨床に導入する土台になりました。その部屋は後に整体を開業することになりました。

私は一人暮らしで練習相手はいないのですが、猫を飼っているので、猫の背中で触診の練習をすることもあります。猫の解剖がわからないので、猫の解剖学書も買うべきか、今も悩んでいます。
【写真:猫の棘突起を母指で触れています】

他にも、脊柱模型を布団に包んで、その上から棘突起や横突起の触診の練習をしたこともあります。布団の上からは意外と識別しやすく、生体の筋肉に包まれた突起部の方がはるかに触診が難しかったことを思い出します。

セミナーで触診についていけなくて、勧められた触診の1dayセミナーに行くために、名古屋から北海道に飛んだこともあります。それだけわかりたくて必死でした。

ここに書いた方法は誰にでも当てはまるわけではありません。気づきや能力が上がるきっかけというのは人それぞれです。それだけに、もがいてでも貪欲に答えを求め続けることが大切だと思います。やり続けると、やはりやり続けただけの答えに行き着くものだと思います。

そして、解剖の勉強や触診の練習はずっと続けるものです。続ける中で様々な発見が出てきます。ひとつ上の階段に上ると、新しい段階の学習を求められます。解剖学はより深く今までと違った内容を求められます。触診はさらに深く正確さを求められます。上に進もうとする限り、それは続きます。

私はいつも「まだまだ」「できない」「難しい」の繰り返しです。たまに「こういうことかな?」「これかな?」という気付きがあります。そして少し分かっても、すぐにまた壁に突き当たります。そのような壁を与えてくれる存在が大切なのだと思います。「自分はまだまだ分かっていない」と思い知らせてくれる人が必要なのです。

壁があるから成長ができるのだと私は思います。

まとめ

脊椎の触診について私の経験をもとに書かせていただきました。多くの治療者にとってそうだと思いますが、私にとっても脊椎は日々、向き合い続けるものです。実はこの記事を書いている2週間ほどの間にもセミナーに参加して、新しい気付きがありました。そのように私の中の知識や技術も日々、更新され続けていきます。

臨床ではほぼ毎日、何かしらの疑問にぶつかります。おそらく一生、このような繰り返しなのだろうと思います。私の先生は「知識は増えれば増えるほど、分からないことも多くなる。分からないことは増える一方だよ。それを楽しいと思えるかが大事だね」と話していました。

今回、書いたのは脊椎についてほんのさわりに過ぎません。しかし、学べば学ぶほど課題が増えていくこの矛盾した世界に楽しさを感じられるとすれば、この先の脊椎の世界もまた楽しんでいけると思います。

日々、脊椎は勉強していますので、また続きを書くかもしれませんが、今回はひとまずここで終わりにしたいと思います。