オステオパシーとはなにか

オステオパシー

私が学習していることもあり、いくつかの記事の中に「オステオパシー」という言葉が出てきます。「オステオパシーってなに?」と聞かれることも多いので、この記事はその補足説明のために書きました 😊

オステオパシー とは、アンドリュー・テイラー・スティル(1828-1917)というアメリカの医師が創始した医学です。
A・T・スティルはごく初期から婦人参政権を支持し、奴隷制に反対していた人で、先進的な考えの持ち主だったようです。北軍の兵士として軍医として南北戦争にも出征しています。

オステオパシーの創始者 A.T.スティル
(「オステオパシーの父 ATスティルの世界」たにぐち書店より)

戦争から帰って、もとの医師の生活に戻ったスティルに悲劇が襲います。3人の子供が髄膜炎で亡くなったのです。彼は悲しみ、子供を救えなかった当時の医学に疑問を持ちました。

スティルは「人は自然治癒力を持っていて自然の法則に基づいて回復する」という考えに至ります。また、「体の異常な構造や機能は、神経、血流、リンパ、ホルモンなど体循環に悪影響を及ぼす」という考えのもと、薬物療法ではなく、徒手による治療で症状が改善できるのでないかと考えました。

その方法は「骨」を意味する「オステオ」と「病む」を意味する「パソス」というギリシャ語から「オステオパシー」と名付けられました。

スティルは1870年代から80年代にかけて、1人でアメリカ全土を回りながら、その新しい技法のデモンストレーションをして歩きました。彼は独自の考えと研究した内容を発表しようとしますが、はじめの頃はほとんどの人がその考えに否定的でした。教会も「手で病気を治せるのはキリストだけ」と彼を追放しました。

しかし、彼の治療は当時の医学では治せなかった患者(※1)を回復させて、それは奇跡だと評判を呼び、彼の患者やその家族を中心にオステオパシーの考えは広まっていきました。

オステオパシーは後にアメリカではDr.資格となり、DO(Doctor of Osteopathic Medicine)として、投薬や外科手術を行うことも可能になりました(※2)。ミズーリ州カークスビルに最初に建てた学校(アメリカンスクール・オブ・オステオパシー)は、現在のカークスビル・オステオパシー医科大学となり、他にもアメリカに28の医科大学があります。

アメリカの外でもオステオパシーは普及していて、特にヨーロッパでは1903年と早い段階で伝播した関係で、そちらはそちらで独自の発展をしている部分もあります。

日本では国による資格制度が確立されておらず、学校や団体はあっても民間制度にとどまっています。団体においても多くの分裂を繰り返し、日本全体でのまとまりができていない状態です。制度や環境の問題で多くの課題を抱えている状態です。

しかし、オステオパシー自体の素晴らしさは多くに認められているところであり、そこから派生した技術は様々な治療分野で活用されています。

創始者であるスティルは、自身が行った治療技術そのものにおいては、ほぼ内容を伝承しませんでした。それは身体の構造を熟知し、概念や哲学がわかっていれば、行われる方法については特に問わない、あるいは自然に導かれるという考え方に基づいていたと考えられます。つまり、オステオパシーとは哲学や概念であり、ある特定の治療方法を指すのではないということです。オステオパシーを「医学」という理由もそこにあります。

オステオパシーには下の4つの原則があります。

・身体は自ら自然治癒力を持つ
・身体は一つのユニットである
・構造と機能は相互に関連する
・治療は以上の3原則の上に成り立つ

これはスティルが打ち立てたものではなく、後継者たちが師の教えについてまとめたもので、現在もオステオパシーの基本原則になっています。

例えば「身体は一つのユニットである」という原則については、最近よく聞かれる筋膜という組織にも関連する内容です。筋膜というのは狭い意味で言えば筋肉を覆っている膜ですが、実際には内臓、骨、脳とあらゆる部分を膜は覆っており、筋膜はそれらの膜とも密接に連結しています。ある部分に歪みや固さがあると、遠く離れた組織に痛みや問題が起こるのも、このような全身のつながりによるものです。

スティルは解剖をよく学ぶように繰り返し言っていました(スティルの言う解剖とは、現在の解剖学だけでなく、生理学、運動学、病理学、発達学、組織学など身体のあらゆる学問のこと)。身体が全体につながるという観点から言えば、骨や関節や筋肉だけでなく、内臓、脳、神経、血管、リンパなどあらゆることに精通していなくては、真の意味で身体を治すことはできません。

この原則からは多くの治療技術が生まれました。頭蓋領域の治療や内臓マニピュレーションはその代表的なものと言えるでしょう。そしてオステオパシーの技術はこの分野にとどまらず、例えば理学療法、カイロプラクティック、ロルフィングなど様々な分野が取り入れています。

オステオパシーが扱う治療手技の例
・頭蓋治療
・内臓マニピュレーション
・筋膜リリース
・ストレイン&カウンターストレイン(SCS)
・マッスルエナジーテクニック(MET)
・スラスト、モビライゼーション
・ファシリテッド・ポジショナル・リリース(FPR)
・靱帯性関節ストレイン(LAS)
・ファンクショナルテクニック
・チャップマン反射  ・・・・・・など

繰り返しになりますが、スティル自身は治療技術を伝えようとしませんでした。スティルがどのような治療をしていたのか、調査・研究が現在に至るまで続いているほどです。

しかし、どのような技術を扱うにしても、人間の身体に精通していることは前提であり、身体を考えると言うことは、心についても考えることだと気付かされます。それを考えるとオステオパシーを学ぶと言うことは、すなわち人間を学ぶことではないか、そのように感じる次第です(※3)。

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※1 当時の薬物療法は現在と比べて大きく劣っていたことも考慮する必要があります。
※2 DOはアメリカ以外でも制度として認められている国はありますが、業務範囲で投薬、外科手術が認められているのはアメリカのみです。例えばヨーロッパの大学を卒業したDOは存在しますが、そちらでは投薬や外科手術は認められていません。
※3 オステオパシーやその歴史については外部リンクですが、「NPO法人アトラス・オステオパシー学院」のホームページがわかりやすくまとまっていると思います。この文章を書く際にも参考にさせていただきました。
また、エンタプライズ刊「オステオパシー総覧」、翔泳社刊「いのちの輝き」も参考にしています。

「いのちの輝き」は伝説のオステオパス、ロバート・C・フルフォードの著書で、一般の方向けにオステオパシーについて書いています。レジェンド的な先生ですので、こんなことが皆できると思ってもらっては困るのですが 😓 参考に良いと思います。