セラピストとして自信を持つ方法

成長のための心得

セラピストとして自信が持てないのはなぜでしょうか?

治療に携わる人間にとって、自信が持てないという悩みは常につきまとい、大きなものだと思います。患者様に対して、大したことができなくて申し訳ない、自分の行っている治療はこれで良いのか? 自分が担当しているから改善しないのではないか? このような悩みは、セラピストとして真面目でごく健全なものだと思います。

数多くのセミナーに出席してきましたが、多くの受講生を集めている先生でも、過去に自分の治療が正しいか悩んだり、患者様が回復しなくて挫折感を味わったことを話していました。

そういう私も自信が持てない性格です。昔からメンタルを整えることの重要性を感じていた私は、成功しているセラピストなどに、どうすれば自信が持てるのか、よく聞いていました。そこで知ったのは、世間的に見てうらやましいくらい成功しているセラピストでも、 必ずしもポジティブで鉄のようなメンタルを持っているわけではない ということでした。

ここではセラピストや治療家が自信を持てない理由と、私がそれについて悩まなくなったプロセス、考え方について、書きたいと思います。

セラピストが自信を持てない理由

経験がないこと

一つ目の要因は「経験がない」ことです。これは自分の必要とする分野において経験がないことで、例えば病院で中枢神経疾患の治療を多く経験していても、スポーツ分野のリハビリに自信が持てないことでイメージしやすいと思います。

経験は 予後予測 を可能にします。目の前の患者がどのくらいの期間でどのくらい回復するかという目安は、治療を行う上で大きな指針になります。

回復の目安がないと、自分の治療が的確なのか判断も難しくなります。地図がない状態で目的地に向かっているようなもので、大きな不安を生み出します。

過去に治療して結果を体験していると、その経験が判断する材料になります。一度も歩いたことがない道に比べて、何回か歩いた道は自信を持って進めます。それと同じことが治療のプロセスでも言えます。

自分の客観的評価ができていないこと

二つ目の要因は「自分の客観的評価ができていない」ことです。例えば、新人で経験がないのは当たり前で、周囲はわかった上で仕事させています。現在は一人の患者に複数の担当がつくことが増えていて、そのような場合は先輩療法士と協同して治療に当たります。そこで自分で抱え込むのは、厳しい言い方をすれば立場をわかっていないということです。

「できない」という悩みがあるのは、 ”自分は本当はもっと出来るべきなのだ” という自尊心の裏返しです。空が飛べないからといって悩む人はいません。それは人間が空を飛べると思っていないからです。

自信を持てない人というのは比較対象が高過ぎる場合が多く、それは実在の他人の時もあれば自分の理想像の時もあります。高い対象と比較して自分のできない部分を一生懸命探してそこに不満を見いだします。それはもっと良くなりたいという渇望があるからです。向上心ともとれますが、 現状を受容できていない とも言えます。

全てにおいて悪いことではありませんが、あまりにそれが過ぎると自分を傷つけてしまいます。このような状態に陥っている時は、視野が狭くなり客観的に自分や周囲を見ていないことが多いのです。

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この二つの要因のうち、前者は相手(患者様)のことがわかっていません。後者は自分のことがわかっていません。相手のことも自分のこともわかっていないので、不安や混乱に陥ってしまうのです。

ここまで書くと分かっていただけるかもしれませんが、セラピストや治療家が悩む「自信のなさ」とは、不安や混乱で客観性や冷静さを失っている状態と言えます。成功しているセラピストたちも強い自信を持っているわけではなくて、冷静で客観的に現状を把握しているだけなのです。

他にも自信を持てない理由は色々あるかもしれませんが、今回はこのような考察をもとに、それではどうすればこの問題を解消できるのか、私の経験も踏まえて書きたいと思います。

自信をつけることの本質

まず、キャリアが浅いうちは経験を積むことが何より必要なことです。それは考え方だけではカバーできない部分もあります。

予後予測については文献でいくらか調べることもできますし、経験が足りない部分については先輩療法士から意見を聞くこともできます。この時期はベストを尽くしつつも、自分が「できない」ことを受け入れて、その上で学びを深めていくことが基本です。

前述のように私もあまり自信が持てない人間で、最近でもそれを自覚した出来事があります。それは何年か前になりますが勤務とは別に整体院を始めた時です。理学療法士としては長い臨床経験を有していましたが、整体という分野では多くの違いがあります。病院や施設で経験していたのは中枢神経疾患や高齢者が多く、整体に来るお客様とは年齢層も身体の状態も大きく異なりました。

勉強はしていたつもりでしたが肝心の整体の経験はゼロだったのです。また、整体院は健康保険が使えないので、お客様が支払う金額は病院でリハビリを行う時よりもはるかに高いものになります。頻回に通ってもらうわけにもいかず、少ない機会で結果を出さなくてはいけないプレッシャーもありました。自信が求められる状態に追い詰められたのです。

私は本が好きなので自己啓発本やネットのサイトを調べて、なんとか自信を持つ方法はないか考えましたが、そんな特効薬があるはずもありませんでした。今から振り返ると自分の行動の性急さがわかるのですが当時は必死でした。

どうしようもなくなった私は考え方を変えることにしました。できないことを騙して勧誘したなら問題ですが、こちらの整体院を選んだのはお客様です。内容に不満があれば二度と来てくれないだけと考えるようにしました。

そして時間が流れて、お客様との関わりを重ねて経験が増えると、セミナーでも今までとは違った気づきや収穫がありました。人間は必要なものを自然と察知しやすくなるのでしょう。徐々に技術の向上も進んでいきました。幸い二度と来ないお客様はほとんどなく多くの人がリピートしてくれました。

この経験から私が感じたのは「自信を持つ」というのは冷静さや客観性を保つことに過ぎません。そして、それを高い次元で行うためには経験が何より大切です。自信がなくても上手く出来なくても、それを 恐れずに経験を積んでいくこと が大切なのだと思います。結局、「自信をつけること」のプロセスは不安や恐れ、混乱、苦痛などから逃げずにどれだけ向き合ったか、なのだと思います。逃げたくなると思うのですが、そこを自分の価値観で逃げるべきか逃げないべきか判断する必要があります。

世の中全てに正面から向き合う必要はありません。全てに真正面から向き合えば多くの人は精神を病んでしまうでしょう。しかし逃げ続けていても成長はなかなかできません。自分が「それをどれだけやりたいのか」考えた上で逃げるか、向き合うのか判断するべきです。

さて、直接的な治療技術とは関係ありませんが、整体のお客様は多くが私の理学療法士としての仕事を知っていました。そこにすでに信頼があったことも助けになったかもしれません。それを考えると、直接携わる内容だけでなく普段からの信頼が大切であることがわかります。

理学療法士として仕事していても、経験があるからといって、全てにおいて自信の持てる判断ができるわけではありません。正解がない問題という場合もあるからです。そのような時、周囲のスタッフと信頼を築けていると精神的な支えになってくれます。自信を支えてくれるのです。

リハビリも整体も人と人が関係する仕事です。人間の強いつながりも時に支えになってくれるのだと思います。何が幸いするかわからないので普段からの地道な積み重ねが大切だと思います。

病院勤務の療法士へ「自信」についての考え方

療法士として働いている方に、私が考えていることをあとふたつ紹介します。

ひとつは組織で働いているのであれば、自分に与えられた責任を時には整理して考えることが大切です。病院であれば院長がいて、リハビリ部門の責任者がいて、さらに主任など役職者がいて、キャリアが浅い人はその下にいるはずです。患者様を担当することについて、おそらく少しの決定権も持っていないはずです。採用したのも患者様の担当にしたのも他人でしょう。

よく大臣が不祥事を起こして総理大臣が任命責任を問われますが、そこに配置した責任は指示した人にあります。その人に義務があるのは治療に持てるベストを尽くすことくらいで、明らかなミスを除けばその結果に責任はありません。自信を気にするのは結果に対して責任感があるためで、それは大切なことですが、自分を追い詰めることはないと思います。

もうひとつは保険診療の範囲内で働いている療法士であれば、自分が全国の療法士の中で平均より上にいるのか下にいるのか考えてみると良いと思います。

時々、勘違いされている方もいますが、病院や施設は必ずしも最高の医療を提供する場所ではありません。法律で権利として掲げられているのは「すべての国民が健康で文化的な最低限の生活を営む権利を有する」というもので 最低限 なのです。

最低限という言葉をどのように解釈するかの問題もありますが、私はその時代の標準的な質を提供するのが義務であると考えています。当然、療法士の能力が平均より下であればそれは努力する必要があると思います。反面、平均より上の人は少なくても自分を責める必要はないと私は考えています。最高のレベルを目指すのであれば、世界で一番のセラピストにならないといけません。そんなことはほとんど不可能です。最高のサービスを目指すことを否定はしませんが、それで焦ったり混乱する必要はないと思います。

さて、平均より上か下かをどう判断するのでしょうか?

あくまで個人的な意見ですが、療法士のセミナーに行くと多くが卒業後1~5年で、5年~10年がチラホラといる程度です。セミナーに行くことだけが勉強ではありませんが、残念ながら多くのベテラン療法士は臨床以外で大して勉強していないと思います。
日々、何かしら知識や技術の向上に努めている療法士はすぐに平均より上に位置できるのでないでしょうか

まとめ

セラピストが自信が持てない理由、それを解消する方法について、自分の経験も交えながらまとめました。職業によって考え方の違いが少しあるかもしれませんが、「自信」というものの本質は変わらないと思います。必要以上に自信がない人というのは、冷静さや客観性が失われていて、心が不安や混乱の中にあると言えます。冷静さと客観性を保つには経験が何よりも必要で、それには失敗、苦痛などを恐れずに、自分が得たいものと逃げずに向き合っていく必要があるでしょう。

もともと物怖じせずにどんなことでも容易に挑戦ができる人はいます。おそらく、そのような人は自信がないと言って悩むこともないでしょう。しかし、そのような天分に恵まれていないとしても、勇気を出して進むことで成長は可能です。自分が本当に手に入れたいものがあるなら、勇気を出して前に一歩踏み出してほしいと思います。