セラピスト、治療家のためのセミナーの選び方

成長のための心得

キャリアが浅いうちはどのようなセミナーに参加すれば良いか悩むかもしれません。
現在は毎週、全国の至るところでセミナーが行われています。自分の職種に限らず、関連業種まで範囲を広げれば、それこそ把握できないほどの数になります。
形式も職能団体が主催しているものから、一個人が全てを取り仕切っているものまで様々です。

これだけセミナーが増えたのは、ネット環境やSNSなど情報手段が発達したことが大きいと考えられます。ひと昔前であれば、何かを広い地域に伝達しようとすれば、メディアやコミュニティを経由しなければならず、そこにはある種のパブリックさ(公的な資質や責任と申しましょうか)を求められました。

私が理学療法士になりたての頃は、協会発行の機関誌(『理学療法学』)の最後の方にセミナーの一覧が載っていて、それが(私にとって)唯一の情報源でした。今もセミナーの一覧は載っていますが、その重要性は当時と比べるまでもないでしょう。

現在は情報手段の発達により、個人でも小さな団体でもセミナーを企画して発信できるようになりました。多くの選択肢が増えた半面、誰の目も通さず精査されない内容が広がる面もあります。それだけに自分で内容を吟味し判断する必要があります。

セミナーは”当たり外れ”とよく表現されますが、その人の学習段階や求めている内容によって評価は異なるはずです。なので、本来”セミナーの選び方”などという論旨に共通解はありません。

ここではキャリアが浅く、セミナーに興味があるけどどれを受講すれば良いのか助言がほしい、というセラピストのために 私の経験から選択の基準 をいくつか書きたいと思います。

セラピストとして成熟したり、多くのセミナーに参加すると、自分が学ぶべき内容はだいたい直感でわかるようになります。SNSやネット上で多くの情報にさらされても、自分に必要かどうかを判断することができます。その基準が確立したら、それに従って考えれば良いです。それが出来る前の人に対する助言と考えてください。

伝統的な治療概念を学ぶ

時間を経て残っている治療法というのは、それだけ支持者がいて、長い臨床での風雪に耐えて現状に至っていると言えます。それはある程度の質を保証していると言えるでしょう。

例えば、中枢疾患の治療で言えばボバースアプローチ、徒手療法で言えばカルテンボーン、パリス、マリガン、メイトランドなどです。他にもMSIアプローチ、ヤンダアプローチなども長く支持者がいます。

これらのもうひとつの長所は書籍がすでに販売されていることで、その内容を吟味することもできます。本を読んでさらに興味が沸くようなら、それは受講の判断材料になりますし、予習により受講をより実りのあるものにできます。

当然、それらの治療概念について否定的な意見を言う人もいますが、それは何を学んでも一緒なので気にしても仕方がありません。逆に言えば、そのような長く続いた治療法については短所を見つけるのも大切ですが、続いた理由「長所」もあるはずでそれもセットで考えるようにしましょう。それにより、自分が迷う後輩に助言する立場になった時に役立つはずです。

また、これら治療概念を学ぶ時はそれに伴う解剖学、生理学、運動学などの基礎知識と結びつけて学習するようにしましょう。それが大きなセラピストとしての財産になっていきます。

信頼できる先輩に相談する

ここでいう「信頼できる」とは”治療成績が良い”という意味ではなく、物事を”客観的に総合的に見ることができる”という意味です。治療成績が良くて、仮にその人が用いている手技を勧められたとしても、自分の学習段階に合うとは限らないからです。長所と短所を教えてくれる先輩が良いと思います。適した人が周囲にいない場合は何人か複数に聞いてみて、総合的に情報を集めるのも良いでしょう。この場合も情報はあくまで個人の見解なので、自分で書籍を読むなどして本当に受講したいか確認しましょう。

職能団体主催の研修、講習会に行く

例えば、理学療法士であれば協会、県士会、母校の卒後研修会などで、安い会費で研修、講習会を開催しています。経験のある先生が基礎系の内容を教えてくれるので、外部の講習を受ける際の下地にもなると思います。ここで大切なのは金額が安いということです。ある程度質が保証されていてリスクが少ないので、本当に何も判断できない場合はここから参加しても良いでしょう。有名な先生を招くこともあるので、ここで興味を持ってさらにその人が講師を務める外部セミナーに参加するのも良いと思います。

遠方だと旅費がかかりますが、学会も多くの有名な先生が講演を行います。そこで同様に情報を集めて受講するセミナーを考えても良いでしょう。

基礎系のセミナーを選ぶ

例えば、理学療法士であれば「肩の理学療法」「膝の理学療法」「中枢神経疾患の理学療法」というように解剖学、生理学、運動学など基礎から教えてくれるセミナーです。しかし私の経験では実は一番、質を見定めるのが難しいものと言えます。

と言うのも、誰から見ても客観的でスタンダードな治療というのは難しく、解剖、生理、運動の知識であれば大きな差は出ないのですが、その解釈や治療においてはその講師の考えが色濃く反映されます。例えば肩の治療であってもA先生とB先生では全く考えが違うということも実際にはよくあることです。

ある治療概念から見た”肩の治療法”や”膝の治療法”という場合もあります。

自分はスタンダードで基本的な治療を学びたかったのに、実際に学んだのは特定の治療概念であったり、その講師の独特な考え方であったりすることも十分にあり得ます。

また、若い先生からベテランの先生まで多くの講師がいて、知識量も全然違うので、一概に若いからダメ、ベテランだから良いということは全然ないのですが、内容を鵜呑みにせずに自分でその扱いを考える必要があります。

自分の職場環境と合致するものを選ぶ

知識や技術はセミナーに参加しただけで伸びるわけではありません。その後、いかに実践して検証していくかが成長にとって大事な要素になります。セミナーにいろいろ参加しているけど技術が伸びないというのは、その後に自分の臨床と結びつける過程が抜けていることが多いのです。

そのような意味で実はその職種ごとに向きやすい治療概念や手技というのは存在すると思います。普段自分が行っている業務に取り込みやすい概念や手技ということです。この内容についてはまた別の記事で取り上げたいと思います。

さて、セミナーを選ぶ時に自分の環境と合うものを選んだ方がその後の習得が容易になります。例えば、整形外科の病院に勤めているならそれに関連する内容の方が臨床に結びつきやすいですし、中枢神経疾患患者の多い病院ならそちらの内容の方が習熟しやすいと思います。

徒手的治療の中でもマリガンコンセプトは座位や立位で患者の自動運動を利用するところに特色があり、それは自分で運動できる相手でないと適用が難しいということでもあります。逆を言えば、脊柱の変形がありベッド上で特定の肢位ができない人でも治療を行える可能性があります。このように同じようなカテゴリーに含まれていてもそれぞれに特色があります。どのような治療法もマスターすると応用が効くので、適用範囲が広がるのですが、初歩の段階では相手を選ぶことになります。自分の環境に合った治療法を選ぶことでその後の習熟に違いが生まれます。

2.の内容と少し矛盾しますが、ある治療法を熱心にやっている先輩がいて、興味があるならそれを学ぶのも有効です。と言うのも実技練習の相手になってもらうとより的確なフィードバックがもらえるからです。実技の向上においてフィードバックはとても貴重なもので、一般の人よりセラピストの方が有益な情報をくれますし、その手技に精通している人ならさらに的確になります。

環境を考慮することは絶対ではありませんが一考しておく価値はあるでしょう。

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いろいろ書きましたが、基本は 自分が興味を持って「行きたい!」と思うもの に行くということです。たくさんセミナーに参加すると、その質や人を見る目、情報の取捨能力が磨かれます。また知り合いも増えて情報がたくさん入ってくるようになります。

私も数多くのセミナーに参加して、自分の現在の治療に生かされているものも、そうでないものもあります。しかし見極める目を養うという意味ではいずれも良い経験になったと思います。成長は人それぞれ過程が違います。自分に合った学習方法を考えていくことも大切なステップになります。